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「旅のおと」Vol.5

Words & Photos By Masanori Nishikawa

世界の屋根と呼ばれるチベットの過酷な旅の体験のなかで得たものは、そのあとの自分の人生の糧として、いまも息づいています。

ありのままの自分でいること。

そして、カラダとこころのつながり。

それらを意識に宿しながら、ぼくの自転車旅、そして人生の旅は新たなステージへと向かいます。

今回は、自分の内側を見直し、満たしていった自転車旅が、誰かのための表現としてカタチとなり、しごとになっていくお話です。


ぼくはコンビニがひとつもない、学校もひとクラスしかない、田んぼに囲まれた田舎で生まれ育ちました。

たくさんの人との出会いや刺激もない、どちらかというとのんびりと、安心して、みんなで一緒に育っていくような子ども時代。

大きな夢のようなものもなく、なんとなく「自分らしく生きることができたらな」ぐらいの人生しか描いていませんでした。

けれど大学時代に親友を事故で亡くし、旅に出会い、いまはひとり自転車で世界を旅するなかで、「知らない世界や風景、ひとに出会う」ことをしながらも、自分がもともと持っていた何かが浮かび上がってくるような、そんな感覚が生まれてきました。

「自分がもし、子どもだったころに。いまの自分のような人に出会っていたなら、自分はどんな世界を、人生を描きながら育っていくことができたんだろう。」

というものでした。

自分の子ども時代には戻れないし、変えられないけれど。

けれど、世界を旅してきた僕が、いまを生きる子どもたちに会いにいくことなら、できる。

それが子どもたちが自分らしく生きていくお手伝いになるなら。

そうはっきりと思い描けたとき。

できればいつまでも日本に帰りたくない、旅の世界に浸っていたいとどこかで思っていたぼくが、自信を持って日本に帰ろう、と決められた瞬間だったんだと思います。

日本を飛び出してから、2年半が経っていました。


久しぶりの日本は。

街がとてもキレイで、静かで。

みんなの話している言葉がぜんぶ理解できてしまうので、しばらくは頭が忙しくて。

テレビには知らない芸人さんがたくさんいて。

そしてちょうど同じ時間だけ、家族や友だちの人生の時間もすすんでいて。

帰国してからのバタバタが落ち着いたあと、僕は自分の卒業した小学校を訪れました。

自分が自転車で旅をしながら見てきた世界、そして体験を子どもたちに話したい。

そう校長先生にお話したときに、全校児童のまえでお話する機会をいただけることになりました。

何にもまだ分からないなかで、けれど強い思いだけは持って、ドキドキしながら学校に向かいました。

目の前にはたくさんの子どもたち。

とにかく一生懸命に、自分のしてきた経験を、思いを、夢中でお話しました。

お話しながら、そこには確かな手応えのようなものがあって、目の前にはほんとに生き生きとした表情で笑っている子どもたちがいたんです。

そして約束の時間が終わって挨拶をしたあと、僕のもとにたくさんの子どもたちが駆け寄ってきてくれたんです。

「めっちゃおもろかった!もっとはなしきかせて!」

「ぼくこんな夢があるんやけど、どうすればいい!?」

「わたしまだ夢ないけど、自分なりの夢を見つけたい!」

子どもたちみんなが喜んでくれて、それぞれの思いを、初めて出会ったオトナのぼくに伝えてくれたこと。

最後に校長先生が「ポケットマネーでごめんね」と、お金を手渡してくださったこと。

学校から家に帰りながら、生まれてはじめて、自分が自分として、誰かに、社会に、何かを成すことができた。

そんな感覚がぼくに芽生えました。


それから、とにかくたくさんの子どもたちに出会いたい。

話をさせてもらいたい。

と、人に出会うたびにお願いをしました。

小学校、中学校、おじいちゃんおばあちゃん、そして保育園や幼稚園に一般の方々。

機会をいただけるなら、とあちこちに出かけました。

こうして、自分の経験を表現してお金をいただけるようにはなりましたが、それで旅を続け、食べていくにはまだほど遠くて。

アルバイトをしながら、自転車旅を続けました。

東日本大震災が起こったときには、自分が日本一周の自転車旅でお世話になった福島の町が大きな被害を受け、1年間ボランティア活動で被災地に滞在しました。

ボランティア活動をしながら町中の子どもたちに出会い、大切な家族やお家をなくした子どもたちのこれからの人生に、自分が少しでもチカラになれたらと、僕は新たなプロジェクトを思いつきました。

自転車旅を続けながら、テレビ電話で、世界と学校の教室をつないで出会いを届けたい。

そして僕がチャレンジをすることで、一緒にがんばろうというメッセージを届けたい。

僕は町の教育委員会を訪れてプレゼンをしました。

ちょうどICT教育がはじまったこと、子どもたちに新しいカタチの授業をつくっていきたい思いがあったことから話が進み、校長先生からもぜひ!とお返事をいただいて、それからは自転車旅をしながら、小学校の授業を担当させていただくことになりました。


「世界と教室をつなぐ授業」をはじめてから、日本の他の地域でもこの授業をやってほしいと声をかけていただくようになりました。

そして「社会とつながり役割を担う」旅のスタイルを認めてもらい、スポンサーとして支援してくださる企業ができました。

こうして、僕は「自転車旅」を「しごと」として活動を続けられることになりました。

これがゴールとなったわけではなく、それからも試行錯誤は続いていくのですが、けれどもこの数年が間違いなく、僕が僕の信じる道をとことん歩んでいこうと人生の覚悟を決められたタイミングだったと、いまは思います。

次回は、冒険という自転車旅のスタイルから、コーヒーを振る舞う自転車旅へと、僕の旅のスタイルが変わっていった出来事について書こうと思います。

引き続きどうぞよろしくお願いします。


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