Text by Shinya Tanaka/Photo by Rie Sawada
NAHBSがトレンドを作るようになっている。
それはなぜか?と問われたらやはり答えはいつも同じで “作りやすい” ということだろう。
新しい材料や新しいコンポーネンツそして新しいアイデアをじゃぁ一丁やってみましょうかってな感じで作り始めることができるのもハンドメイドバイクの世界の魅力なのだから。
だから今回はモダンと歴史を上手に共有する男Curtis Inglisに登場してもらう事にしよう。 パチパチパチ!
ハイ!僕、カーティス! こっちは僕の相棒のマックス。よろしくね。
なんてキャッチーな登場は彼に失礼なのであるが、本当に根が優しくて気遣いの良いナイスガイなカーティスはRetrotecのオーナービルダーである。そんな彼はCaliforniaのNAPAのワイン畑に囲まれて毎日せっせと自転車を作り、自転車で走り回り、たまに車も直しながら生きている。
そんな彼が今回のNAHBSに持ち込んだ多数のバイクはちょっと面白いラインナップなので見て行きながらちょっと話をしてみたい。
まずはこのロードレーサー。
もちろんトップはラウンドしたRetrotecが20年にわたって作り続けている定番のHalf Topスタイル。
そして細部を見渡すと”あれっ” て気付く人はいると思います。。。 わかりますか?
1: DI2のバッテリーが外装されていない。
簡単ですね?こんな問題は。シートポストに埋め込まれています。
アメリカハンドメイド界きっての変態メーカーCallffeeおじ様がインターセクションとバッテリーをシートに埋め込めるシステムを製造して現在販売しています。それによってBBに大きな穴を開ける必要無く(BB周りの剛性は大事です。)DI2のシステムを組み込むことができます。
【予想】多分近いうちにシマノ様もこのシステムでバッテリーを販売すると思います。 (間違ってもおこらないで下さい。)
2:リアのブレーキが見当たらない。
これも簡単ですね。チェーンステーについています。
そしてケーブルはインターナルで仕上げているのでまるでためしてガッテンのようです。
こちらももちろんオプションでオーダーしていただく事が可能です。
この自転車は現在の彼のトレーニングバイクとして日々ワイン畑の中を走り回っています。
その光景は彼のInstagramでどうぞ。
次にこのBest MTBに輝いたDouble Topスタイルのモダンマウンテン。
顕著に現代のスタンダードな規格になるであろうポイントを押さえています。
1:44mmのHead TubingとChrisKing Inset 7 の組み合わせ。
もうこれは剛性と軽量化を求めて以外の何者でもありません。フォークはどんどんとテーパード化してきますしCXやRoadまでもがDiscに突入して行くであろう時代の中で当然のオプションになります。むしろ11/8が旧規格になって行くかもしれませんね。
2:リア142mm幅 & 12mmスルーアクスル 。
こちらも満を持して ChrisKingやXTRがハブを投入したおかげで Paragon Machine Worksがリアエンドを製造してくれるようになりました。足回りの高剛性化にはもはや歯止めがかからないでしょう。
上手い人はより上手く早く、ヘタッピな僕でも多少安心出来るかもしれません。。。
3: PF30のスタンダード化。
BB周りの剛性アップ(アップアップってうるさいね本当に。)と軽量化(軽く軽くってうるさいね本当に。)、むしろ僕にはこっちが嬉しいのですが ProblemSolversのエキセントリックシステム対応アダプター仕様でシングル化があっという間に出来てしまう! シングルも楽しいかどうかはやってみな分からんけど、損したくねーっていうちょっとビンボー症な僕みたいな人間にうってつけ。(いやもとい、シングルで良いですほんまに。)
さらにはこんなコミュータ車。これはTriple Topと呼びます。
Twinのトップチューブと飾りトップチューブの3本で構成されています。単純に“かっけーっ” て叫んで欲しいです。今後の参考として見ていただくと良いのですが、フロントとリアラックをフレームに塗り合わせをするだけでこんなにも見事な調和が生まれます。そしてこんな自転車にも気張らないでシマノを使うところが僕のお気に入りです。(カリフォルニアンでシマノを否定しているビルダーに出会うことはとても難しく思います。ここでの会話のポイントはビルダーということです。)
さらには過去にはこんなツーリング車でOregon Manifestに出場しています。
手抜き場所がないです。
ロゴをシルクスクリーンで泥よけに細工して、フロントラックはPatの Passtowを同色塗装。おまけにFreightBaggageならもう言う事もないでしょう?
もっと言えばThread Stemにしているところとか、BruceGordonのライトにも色がね。しかもDoubleLever仕様にしてハブダイナモとSUPERNOVAとくる日には疼きます。
そして仕上げはWTB Rocket-V!(カンバック!アボセットって叫んでいる人ぜひ使ってみて下さいね。) まぁこれは”アメカジ”です。分かる人は分かります。分からない人は一生分かりません。それで良いと思います。
うん!これも良い。ClassicスタイルとRetrotecは呼んでいます。
純粋にCurtisのファーストバイクであるSchwinnのクルーザーバイクをきちんとした使用目的に耐えれるように設計、製造しているモデルで、アメリカ人が大好きなスタイルのひとつ。(ただ製造に最も多くの時間が掛かるモデルでもあります。)
これは町乗りに備えてスリックに履き替えていますがきっちりトレイルでも遺憾なく性能を発揮します。
ここのポイントはタイヤを替えるという事です。多くの人はモデルや車種に固執したがりますが一番大事なのはどう乗りたいのであるのかであります。そこに見合ったチョイス、すなわちどんなサイズのタイヤを履けるのかが単純に自転車としての質の違いとなります。今やロードがどうとかクロスがマウンテンなんて言っていると時代にきっちり取り残されますのでご注意ください。
ベーシックなHalf Top 29erもありました。
ストックサイズのオーダーでこちらが基本のスペックとなります。
11/8サイズのHeadTubing、Standard BB、130mmリアエンドに10mmQRは永遠のスタンダードになるのでしょうか。
そしてこのバイクはFillet仕上げになっていますね。RetrotecはTIG、 Fillet Brazing、Luggedから選んでいただけますのでぜひあなたのお気に入りを見つけて下さい。
気付きました?多くのカリフォルニアンビルダーが割と同じようなパーツチョイスで完成車に仕上げていることに。シマノは日本の企業ですが、ほぼアメリカのマウンテンバイク市場によって丹念に育てられたと僕は認識しています。しかもメインオフィスはカリフォルニアにあります。そしてFox Forkもまたカリフォルニア、Scotts Valleyという田舎町にあります。WTBもCrankBrothersもEASTONもカリフォルニアベースの企業です。こんなアッセンブリが出来る州?(むしろ国ですね。)はなかなかないと思いますし単純に羨ましく感じるのです。アイデアがそこにあり伝える人がいて作る人もいる。そしてちゃんと使われているのです。FUTURE 1に書いた事が実際に目にすることができます。(車なんかは昔はそうでしたが、市場が他国に移り行くにつれ日本と言う市場の価値が薄れてきている気がしませんか?)
彼の工房は家の庭にたてられたガレージです。その小さなガレージの中から日々アイデアと鉄粉にまみれながら自転車が生まれて行きます。
そして今年が彼のビルディング歴が20年目の節目になりました。20年削り続け、磨き続け、遊び続ける事を愛し止まないことがRetrotecなのです。
変わるべきものや変わらないものを自ら製造して、そして自身で使用する事によって判断し次の技術に繋げて行く。そんなとても難しい事を、“JOY” というオブラートに包んでえいっと飲み込むと嫌な事などは一旦忘れるのでしょう。
もともとCurtisはSycip兄弟と共にSan Franciscoのピアにガレージを共有して自転車を作り始めた。
そしてお互いにそれぞれオーダーが入り始め都会では自分たちの楽しむべく自転車遊びが出来ない事と、製造に集中することができなくなっていった為にお互いの住みやすい場所に定住し工房を構えたのだった。(Curtisは生まれ故郷のNAPA、SycipはSantaRosaである。それぞれSFから100マイルほどの利便の良い町であると言うのも特徴的である。)
そんな流れはこの国の自転車業界でも少しあり、ちょっと離れた場所では盛んに行なわれ始めている気がしている。都会で名前を売り、仕事(クライアント)を見つけ、必要とされ、自分の人生をかけてしたい事を見つけ、そして生きやすいところ移住する。たまには町に出れば良い。そんな感じで生きられるのであればちょっとと言わずすごく贅沢で豊かな暮らしであると言えるのだろう。そんな人間になりたいと密かに思う事もある。
次に続きます。
Retrotech – レトロテック
– プロダクトサンプル [ FlickrのRetrotechセットをご覧ください。]