
クリスキング製品が「一生モノ」と言われるのは、優れた耐久性やライフタイム保証だけではありません。自分の手で分解・整備・再生できる、その設計思想こそが最大の理由です。
分解できるからこそ状態が把握でき、必要なときに必要な場所へ手が届く。結果として寿命が伸び、愛着も育ちます。
今回はスタッフのダーちゃんが、お客様のクリスキング・ハブを完全オーバーホール。実際の作業手順を写真とともに紹介しつつ、クリスキング製品の特徴を解説していきます。
オーバーホール工程
1. 分解前チェック
ホイールを車体から外し、ハブ軸を回しながら、ガタ(軸のガタつき)/回転のザラつき/異音を確認。
回転抵抗がある場合は、プリロード(玉あたり)の締め過ぎや、グリス劣化のサインです。


2. ハブの分解:アクスル・フリーボディを外す
圧入ベアリング以外の分解は、ヘックスやトルクスレンチで作業可能です。エンドキャップを外し、アジャスティングクランプを緩め、アクスルを抜き取ります。小さなOリングやシール類は取外した順番通りに並べておきます。


3. 専用工具でベアリングを抜く
前後ハブシェルに圧入されているベアリングは、Hub Service Toolで取外します。ここが最初の見せ場。治具ガイドにそって正しくツールを挿入し、ハンマーで打撃してベアリングを押し出します。専用設計ツールなのでハブシェルやベアリングを傷めることなく取り外すことができます。


4. シールドベアリングの分解
クリスキングはシールドベアリングでも整備前提の構造です。一般的に”使い捨て”とされがちなベアリングも、洗浄・再グリスで再生できるのが大きな特徴です。
この「分解・再生できる密封ベアリング」こそ、クリスキングの設計思想を体現する部分です。詳しくは後述します。



5. クリーニングとグリスアップ
各パーツには定位置と向きがあります。取り外した順にトレーやウェスへ整列し、組み戻しの参照にします。
金属パーツは脱脂剤で洗浄、ダメージを受けやすいラバー/シール類は中性洗剤で別洗い(溶剤への長時間浸漬は避ける)を基本にしてください。歯ブラシ等で汚れを落とし乾燥させます。
ハブの心臓部であるRingDrive(駆動環とドライブシェルの歯面)は入念に清掃し、組立時に Ring Drive 2.0 を歯の“谷”が見えなくなる程度まで充填します(他種グリスの混用は不可。抵抗や異音の原因になります)
ベアリング内部は別途、ベアリング専用グリス Silver Grease を充填してください。(ステンレスベアリング 1/2周、セラミックベアリグ 1/4周が目安です)



6. 再圧入・組み立て
再び専用ツールを使い、ベアリングを定位置に圧入していきます。
プリロード調整クランプは「抵抗が出るまで締める → ごく少し戻す」が基本です。その後ロックボルトで固定します。
なお、QR やスルーアクスルで車体に装着するとアクスルがわずかに圧縮され、プリロードが変化します。ホイールを装着した状態で左右に揺すって、ガタがないか最終確認を行ってください。


クリスキングのベアリングが特別な理由
アングルコンタクト構造
一般的なラジアルベアリングと異なり、クリスキングはアングルコンタクトベアリングを採用しています。ラジアル荷重+スラスト荷重を同時に受け止め、横剛性と耐久性を両立します。ハードなダンシングや、ディスクブレーキングでも当たり面が逃げにくいため、ガタの発生を抑えつつ軽い回転を維持しやすい構造です。
走るほど速くなる設計思想
走行を重ねるほどベアリングレース表面が鏡面化(バーニッシュ)し、微細な凹凸が均されて摩擦が低下します。結果として、新品より数千km走った個体のほうが軽く回るという“逆説”を狙った設計です。
この性質ゆえに初期馴染みが発生します。軽い再調整(プリロードの見直し)を行うと、効果がより長く安定します。
メンテナンス性とサステナビリティ
洗浄と再グリスで再生できるため、基本的な消耗品はグリス(リングドライブ用/ベアリング用)と最小限のシール類のみ。廃棄ではなくリビルドを前提にした構造は、コスト面の合理性だけでなく、環境負荷の低減にもつながっています。
一生モノを育てる楽しみ


クリスキングのハブは、単なる自転車パーツではなく「育てる道具」です。
年に一度程度のメンテンスを重ねることで性能が保たれ、むしろ走るほど馴染んで良くなる、稀有なコンポーネント。
自分の手で整備するも良し、信頼できるショップに任せるも良し。
それぞれのスタイルで、あなただけのハブを「永遠に廻り続ける存在」にしていきましょう。
もちろん、サークルズではCHRIS KINGのオーバーホールサービスも展開しております。