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「週刊 球体の作りかた」Vol.3

こんにちはサークルズ田中です。先日スタッフとたわいのない話をしている時に「これってどう思います?」とSNSのニュースについて話してきました。結構面白いなって思って少し熟考してみようと思い、その時は何も答えなかったのですが、次の日のその話題を振るとすでにその話は銀河系の彼方へと消え失せていて、何か痛い人になっていました。そんな時間や情報の捉えかたが不思議だなと思ったので今週はこんなトピックでお時間を濁させてもらおうかなと思います。ぜひご一読いただけると幸いです。

時間に対する理解力と社会の断片化について

1. 瞬間的な視点が支配する現代社会

現代社会において、多くの人々が時間を短絡的に捉え、長期的な視点を持つことができなくなっているように感じることがあります。

この傾向は、個人レベルから企業、政治、社会全体にまで広がっていて、社会に与えるその影響は計り知れないと思っています。スマートフォンの普及により、情報の消費速度は極端に速くなりました。SNSでは、一つのニュースが拡散され、人々の感情を瞬時に揺さぶります。しかし、それらの情報はすぐに忘れ去られ、新たな話題が次々と供給されます。多くの人々の関心は「今、何が起きたのか」に集中し、「なぜ起きたのか」「これが今後どのような影響を及ぼすのか」といった時間軸を持った深い思考はほとんどなされていないのではないでしょうか。

政治や経済においても、長期的なビジョンを持つことが軽視されがちだと感じることも多くなりました。企業は四半期ごとの決算に振り回され、政治家は次の選挙の結果ばかりを気にして本質的な政策を打ち出せません。このように、目の前の利益や短期的な成果ばかりを追い求める風潮が蔓延しているのではないでしょうか。

2. 歴史から学ばない社会

長期的な視点の欠如は、歴史を軽視する姿勢にも現れています。歴史は、現在の社会や文化がどのように形成されてきたのかを理解するための重要な手がかりです。しかし、教育においても、歴史は暗記科目として扱われ、そこから学ぶべき教訓について深く考える機会は少なくなっています。

例えば、バブル崩壊の教訓を活かせないままリーマン・ショックが発生し、現在も投機的な金融商品に依存する経済が続いていることや、また過去の戦争の反省が十分になされないまま、ポピュリズム的な政治が台頭し、ナショナリズムが高まる現象も見られます。歴史を無視し、目先の感情や利益に流される社会は、同じ失敗を繰り返してしまいます。

3. 時間軸の断片化と人間の思考能力の低下

時間を断片的にしか捉えられないことは、人間の思考能力そのものを低下させます。人々は長いスパンで物事を考える訓練を受けておらず、すぐに結論を求めるようになっています。例えば、AIの進化についても「仕事が奪われる」「便利になる」といった短絡的な議論ばかりが目立ち、本当に社会がどう変わるのか、どのような倫理的課題が生じるのかといった長期的な考察はあまり行われません。

また、環境問題においても、すぐに結果が出ないことを理由に対策が後回しにされがちです。脱炭素化の必要性は何十年も前から指摘されているにもかかわらず、短期的な経済成長を優先し、抜本的な対策が打たれません。数十年後の未来に影響を与える選択が求められているにもかかわらず、多くの人々は「今」の生活にしか目を向けることができないのです。

4. 商業の世界では時間の短縮が価値になる

この「時間軸の幼稚な捉え方」を逆手に取ることで、ビジネスの世界では成功を収めることができます。例えば、多くの企業は「時短」「即効性」「簡単さ」を売りにした商品やサービスを提供しています。ファストフード、インスタント食品、ワンクリックで購入できるECサイト、短時間で結果が出るダイエット法など、人々が「時間をかけること」を嫌う心理を巧みに利用しています。

また、SNSのアルゴリズムは、ユーザーが短時間で満足し、次の情報へと移ることを前提に設計されています。コンテンツは短く簡潔でなければならず、長文の記事や深い議論は敬遠されがちです。このように、「時間を短くすること」が価値となり、人々の時間軸の捉え方をますます幼稚化させる悪循環が生まれています。

5. 長期的視点を持つことの難しさと価値

本来、人間は時間を長いスパンで捉えることができる存在です。しかし、その能力は訓練されなければ育ちません。哲学や歴史、文学といった長期的な視点を必要とする学問が軽視される中、時間に対する思考力を持つ人はますます希少になっています。

企業や政治、社会全体においても、短期的な成果を求める圧力が強いため、長期的なビジョンを持つことが難しくなっています。例えば、日本の鉄道やインフラは長期的な計画に基づいて整備されてきましたが、今では目先の採算性が重視され、長期的な投資が難しくなっています。

しかし、長期的な視点を持つことができる人は、社会の変化に左右されず、安定した意思決定を行うことができます。短期的なノイズに振り回されることなく、本質を見抜く力を持つ人材は、どの分野においても貴重な存在です。

6. どこに議論の場を求めるべきか

本質的な議論ができる場が極めて限られていることも問題です。日常的な会話の多くは、浅い情報の交換にとどまり、深い思考を要するテーマは敬遠されがちです。哲学や社会学の分野においても、大学のアカデミズムの中に閉じ込められ、社会全体の議論にはなかなか結びつきません。

一方で、商売の世界ではこの「短期的な思考」を利用することで成功することができます。この矛盾をどう捉えるかが、今後の課題となります。すなわち、短期的な視点の中に長期的なビジョンを織り込む方法を模索することが重要です。単なる消費者としてではなく、社会を動かす側の立場に立つことで、本質的な議論をリードする役割を果たすことができます。

7. 終わりに

逆説的に捉えると、時間を長期的に捉え、深く考える力を持つことは、今の社会において非常に価値があることだとわたしは考えています。しかし、それは同時に孤独な作業でもあります。本質的な議論を交わせる相手を見つけることが難しい中で、自らの思考を研ぎ澄ませ、社会の中でどのように立ち回るかを模索することが求められます。

短期的な視点が支配する社会の中で、長期的な視点を持つ人間がどのように振る舞うべきか、その方法を探り続けることが、これからの新しい時代の課題の一つになるのではないでしょうか。そんな時に自転車に乗るという行為はとても有益だなとも思うわけなのです。

それではまた来週お目にかかりましょう。

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田中 慎也

空転する思いと考えを自転出来るところまで押し上げてみた2006年。自転し始めたその空間は更なる求心力を持ちより多く、より高くへと僕を運んでいくのだろうか。多くの仲間に支えられ、助けられて回り続ける回転はローリングストーンズの様に生き長らえることができるのならば素直にとても嬉しいのです。既成概念をぶっ飛ばしてあなただけの自転力に置き換えてくれるのなら僕は何時でも一緒に漕ぎ進めていきたいと思っているのだから。
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