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「週刊 球体の作りかた」Vol.9

30年乗れるフレームを、選ぶということ

こんにちは、お元気でしょうか。わたしは最近、また沸々と知識欲が湧いてきています。自転車にまつわる様々な文献や資料を読み漁っていたり、ソール・ベローを今一度読み返してみたりなんかして、はたまたこの連載を続けるなかで現在の社会情勢について個人的な気持ちを赤裸々に表現してみたり、人って、人生ってつくづく面白いものだなと改めて思っている次第です。

今回は今までの風味とはちょっと変えてみて、ある特定の自転車について書いてみようと思ったわけです。文章の性質上、少し長くはなってしまいますが最後までご一読いただけましたら幸いです。

あなたのチタン、ほんとうに信じられますか?

チタンは、自転車業界においても夢の素材だと言われています。近年では多くのフレームビルダーが、スチールからチタンに切り替える例も多く見受けられるようになってきました。 軽くて、錆びなくて、強い、航空機にも使われる金属が、自転車に使われていたら──それだけでワクワクするのも当然です。

でも実際には、「クラックが入った」「チェーンステーが割れた」なんていう話も耳にしませんか?

それはチタンが悪いんじゃないということから今回の話は始まります。つまりは その扱い方を間違えると、いくら高価でも壊れてしまう素材ということ。

Seven Cycles(セブン・サイクルズ)は、そうしたトラブルが「素材」ではなく「扱い方」によって起きることを、誰よりも早く、誰よりも深く理解しているフレームメーカーです。ただ素材に頼るのではなく、「チタンをどう扱うか」まで徹底的に突き詰めたメーカーは、世界を見渡しても見つけることはなかなか難しいと思います。

そんなサークルズが長きに渡り、パートナーとして国内代理店を続けている Seven Cycles を深掘っていきましょう。

他とは違う、その理由|Seven Cyclesが頂点に立つわけとは

高級自転車ブランドがひしめく中で、Seven Cyclesはなぜこれほどまでに独特で孤高の存在になってしまっているのでしょう? そして一度手に入れてしまうと、その多くのサイクリストが熱狂的な信者になってしまうのか?

その理由はひとつ。他社が踏み込めない”技術の領域”まで、セブンだけが既に到達しているからだと言えるのかもしれません。

特に、チタンチューブの加工方法──“インターナルバテッド”と”エクスターナルバテッド”の違いこそ、セブンが他社を大きく引き離す決定的なポイントになっているのでこの辺りから説明していきます。


なぜ他社のチタンバイクは割れるのか?

多くのチタンバイクメーカーは、インターナルバテッドチューブ(チューブの内側を加工をする方法)を採用しています。これは、供給の面でも、経営の面からでも、効率的で一見合理的に思えるかもしれません。

しかし、この方式には致命的な弱点があります。

  1. 内部を削る=チューブのグレイン構造(結晶配向)を破壊する
  2. マンドレル(芯金)での加工中に内面に微細な傷やスクラッチが発生してしまう
  3. 加工部に応力集中が起こり、そこから破断が始まる

しかもこれらの問題は外観からはほとんど確認できないため、数年経ってから突然フレームが割れるという事例が非常に多いのです。

実際、インターナルバテッドを用いたチタンバイクが、BB周辺やチェーンステーの付け根などにヘアラインクラック(細い亀裂)を生じて破損したという報告は枚挙にいとまがありません。


セブンは”外側”から強さを作る

そこでセブンが長きに渡り採用しているのは、エクスターナルバテッド加工

これは、チューブの外側から精密に削り出して厚みを調整する方式です。非常に手間がかかり、通常の工場では対応できない工程ですが、その分圧倒的なメリットがあります。

  • 内部構造(結晶配向)を一切壊さない
  • 応力の集中を抑え、疲労強度が大幅に向上
  • 部位ごとに肉厚を最適化することで、軽さと耐久性を両立
  • チューブ内部の清掃がしやすい

この工法のために、セブンは独自のバテッドマシンを自社内に設置し、各フレームモデル・ライダーごとに異なるプロファイルでチューブ加工を行っています。

つまり、「理想的なバテッド加工がされたチタンチューブ」はセブンでしか手に入らないというわけです。

チューブグレードの違いについて

Sevenでは、3種類のチューブグレードを提供しています。いずれも素材は3-2.5 チタン合金ですが、加工方法や仕上げによって性格が大きく異なります。

XX マルチバテッド 3-2.5 チタン

軽量性を徹底的に追求した、Seven独自のマルチバテッドチタン。チューブの厚みを部分ごとに連続的に変化させることで、必要のない部分の重量を極限まで削減。これまでで最も軽量なチューブセットです。

SL ダブルバテッド 3-2.5 チタン

Sevenのマテリアルラインナップの中心を担う、バランス型チューブセット。軽さ、反応性、耐久性のすべてをバランスよく備えたオールラウンダーであり、最も多くのフレームに使用されています。

Sタイプ(ストレートゲージ)3-2.5 チタン

高耐久性を誇る、ストレートゲージ(均一肉厚)のチューブセット。長期間の使用に耐える強度と、比較的リーズナブルな価格を両立した、実用性重視のパフォーマンスチューブです。


なぜCSR値が重要なのか?

チタンチューブの品質は「CSR値(Cold Strain Ratio)」によって評価されます。これは、チューブに施された冷間加工の量と方向性を示す指標です。

  • 理想的なCSR値:1.7〜1.9 → 高い疲労強度としなやかな反応性
  • CSR値が2.0を超える → 疲労耐久性が著しく低下

セブンはこのCSRを極限までコントロールするため、

  1. ピルガーミルによる多段階圧延
  2. 中間ごとの真空焼きなまし
  3. 酸処理による表面精製
  4. 冷間加工前の直進補正

という緻密な工程を繰り返し、常に最適なCSRレンジ内にチューブを仕上げています

最終的に、チューブには以下の仕上げが施されます:

  • 再度の酸処理と超音波検査
  • 最終焼きなまし:柔軟性をわずかに高めてエンドユーザーに最適なバランスを与える
  • アルファケース(表面酸化層)の除去処理:特にチューブの内外面を丁寧に酸で洗浄します

※ アルファケースとは、チタンの高温加工中に表面にできる酸素に富んだ硬化層で、脆く加工性が悪いため除去が必要です。

このような冶金的管理を行っているバイクメーカーは、世界を見渡してもほぼ存在しません。


手間もコストもかかる。でも、やる。

エクスターナルバテッド加工は、マシンの導入コストも高く、製造にも時間がかかります。

  • インターナルなら量産に向いている
  • エクスターナルは一本一本手間をかけなければならない

しかしセブンはそれでもこの方法を採用し続けています。なぜか?

本当に信頼できる一台を作るには、これしかない」と知っているからです。


セブンの溶接技術 = 芸術

チタンは溶接中、酸素・窒素・炭化水素と接触すると、極端に脆くなります。

セブンでは:

  • 全チューブを溶接前に徹底洗浄(もう本当に基本中の基本)
  • 溶接作業中はフレームの内外を不活性ガス(アルゴン)で満たす
  • 専用のティグトーチ・パージシステムを独自開発

これにより、酸化も窒化も一切起こらない理想的な溶接環境を実現しています。

溶接ビードの美しさと強度を両立させる技術は、世界のどこでも真似できるものではありません。


セブンがやらないこと 3選

多角形チューブ

→ ユニークなので目を引きやすいが、単純にねじれ剛性が弱く、破断リスクが高い

アノダイジング(陽極酸化)

→ 表面が脆くなり、溶接が非常に困難になり、保証対象外。

ハイポリッシュ仕上げ

→ 見た目は良いが、表面を削ってしまう=強度を下げる

セブンが選ぶのは常に「強くて長く使えるかどうか」なのです。


最終仕上げと“証明”の一枚

セブンでは、すべての溶接が完了したのちに、CNCマシンによってボトムブラケットのネジ山(スレッド)を切削しています。これは、汎用品として販売されているボトムブラケットよりもさらに高い精度を実現するためであり、耐久性と軽量性の両面を考慮した、セブンならではのこだわりです。わずかなズレも許されないBB部分だからこそ、機械加工による“仕上げのひと手間”を惜しみません。

仕上げ工程はナイロンホイールとスコッチブライト™を使ったサテン仕上げ。手入れもしやすく、傷も自分でメンテナンス可能。

最終工程では:

  • ステンレス製のレーザーヘッドバッジを装着
  • フレームジオメトリ・シリアルナンバー・製作者のサインが入った証明カードを同梱

このカードこそが、あなたのバイクが世界で一つだけの存在である証明になります。


あなたのための、たった一台を

Sevenのフレームは、長く乗ることを前提につくられています。 だから再塗装も、カスタムも、部品交換も、何度でも楽しめる。 10年先も、20年先も、乗り手と一緒に年齢を重ねていく──そんなフレームだと考えています。

  • 量産ではなく、あなたのためだけに。 流行でもなく、技術と素材の真髄を突き詰めた一本
  • 量産された自転車にはない、あなただけのための専用設計
  • 信頼できる素材、最高の加工精度、そして、30年以上積み上げたクラフトマンシップ

あなたの体格、乗り方、人生にフィットする世界で一台のために──

Seven Cyclesは、サイクリストの人生をともにするバイクをつくるブランドだということです。

ここまで読み切ってくれたみなさま、本当にありがとうございます。 そしてもしかしたら次は、あなたのSevenをつくるお手伝いをする番なのかもしれません。

それではごきげんよう、また来週お目にかかりましょう。

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kyutai
田中 慎也

空転する思いと考えを自転出来るところまで押し上げてみた2006年。自転し始めたその空間は更なる求心力を持ちより多く、より高くへと僕を運んでいくのだろうか。多くの仲間に支えられ、助けられて回り続ける回転はローリングストーンズの様に生き長らえることができるのならば素直にとても嬉しいのです。既成概念をぶっ飛ばしてあなただけの自転力に置き換えてくれるのなら僕は何時でも一緒に漕ぎ進めていきたいと思っているのだから。
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