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「週刊 球体のつくり方」Vol.17

ゆるやかだけど確かな革命

遠くの煙と日常の揺らぎ

ここ最近、世界のどこかで起きた出来事が、ほんの数日後には私たちの日常を静かに揺らしています。
中東地域では、緊張と停戦がくり返され、ニュースではその報道が目まぐるしく飛び交っています。
そのたびに原油価格は乱高下し、数日前には70ドル台にまで跳ね上がったという知らせもありました。
いまもなお60ドル台後半で高止まりしたまま、その不安定な動きは、何かを示唆するように、わたしたちの生活にじわりと無言の圧をかけてきます。

遠く離れた国の火種が、気がつけば自宅のキッチンや通勤路、ガソリンスタンドの価格表示にまでも影響を与え、問答無用に上がり続ける燃料などは、配送にも、仕入れにも、そしてあらゆるモノの値札にもじわじわと波紋を広げ、暮らしの内容そのものを、少しずつ、確実に塗り替えていきます。

「グローバル経済」という言葉を、私たちはもう何年も聞き慣れてしまったけれど、本当にそれを実感するのは、こういうときなのかもしれません。

どこかで燃えた煙が、長い風に乗って自分の部屋の隅にちゃんとたまっていくようなものなのでしょう。そして目には見えないけれど、確かにそこにある“依存のかたち”が、浮かび上がってくるような気持ちにもなってしまうのです。

でも、そんなときこそ、私たちサイクリストが思い出したいことがあります。

「もう少しゆるやかに、もう少し自分たちの手の届く範囲で、丁寧に生きていけるのではないだろうか。」

日々の行動や小さな決定が、実は大きなシステムの動きに対して、静かな抵抗力を持っている。自転車で通勤を始める。身の回りのものを自分の手で作ったり直したりする。近所を散策がてら、馴染みの店で買い物をする。

それは「ゆるやかで確かな革命」の、ささやかな入り口なのです。

自転車が変える毎日と世界

たとえば、自転車通勤という小さな選択ひとつを取っても、想像以上に多くのメリットがあります。アメリカのUCLAが行った研究発表によれば、車から自転車に変えるだけで一人当たりの年間のCO₂排出量を67%も削減できるそうです。

また、自転車で通勤することで体を動かす機会が増え、心身ともに健康的になるという報告も多数あります。スペインでの調査では、自転車通勤者は車の通勤車に比べて圧倒的にストレスが少なく、BMI値も低いことも明らかになっています。

自分の手を動かすという革命

もうひとつ伝えたいのが、自分の手を使って何かを作り出したり、直したりする——いわゆるDIYの大切さです。

自転車の整備を自分で行ったり、家の小さな家具や日用品を手作業で仕上げることで、「自分でできる」という感覚、すなわち自己効力感が高まることが、複数の研究でも示されています。

これは単に便利さを得るための手段ではなく、誰かに依存しすぎない感覚を育て、心の健やかさにもつながっていくものだと思います。

地元から始まる波紋

こうした「ゆるやかで確かな革命」は、個人の内面だけでなく、地域の経済やコミュニティにも良い影響をもたらします。

自転車を使えば、地元の小さな商店や飲食店に立ち寄る機会が自然と増えていきます。それが地域経済の循環を支えることにもつながっていく。アメリカやカナダで行われた調査でも、自転車インフラの整備が小規模ビジネスの売上増加に寄与した事例が多数報告されています。
(もちろん、車でのアクセスや駐車のしやすさも、地方都市にとっては欠かせない要素なのですが、駐車もしにくいのが現状。)

日常の積み重ねが生む大きな波

社会というのは、過激なスローガンや急激な変化欲よりも、こうした日々の小さな積み重ねによって、ゆっくりと変わっていくものなのだと思います。

自転車を移動手段として選ぶこと。自分の手を正しく動かすこと。近所を散策しながら商店街の小さな店で買い物をすること。こうした行動が重なっていくことで、大きなうねりとなり、文化や価値観の変化を生み出すのだと思っています。

一人ひとりが日常の中で実践できることを着実に積み重ねていく。それこそが、もっとも確かな社会変革の道筋——つまり、「ゆるやかで確かな革命」なんだと、わたしは思っています。

そんなふうにして、日々の選択を少しずつ変えていくことが、知らないうちに未来のかたちをつくっているのかもしれません。

すぐに世界が変わるわけじゃない。でも、少しずつ、自分たちの暮らしの手触りを取り戻すことはできる。

今日も、通勤途中にペダルを踏みながら、そんなふうに思うのでした。

それではみなさんごきげんよう、また来週お会いしましょう。

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kyutai
田中 慎也

空転する思いと考えを自転出来るところまで押し上げてみた2006年。自転し始めたその空間は更なる求心力を持ちより多く、より高くへと僕を運んでいくのだろうか。多くの仲間に支えられ、助けられて回り続ける回転はローリングストーンズの様に生き長らえることができるのならば素直にとても嬉しいのです。既成概念をぶっ飛ばしてあなただけの自転力に置き換えてくれるのなら僕は何時でも一緒に漕ぎ進めていきたいと思っているのだから。
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