4000台の行方と、修理という思想
わたしたちは、名古屋の街角で自転車を売っています。
でも、自分たちの仕事を単なる「自転車販売」と呼ぶことには、どうも昔から抵抗感があるのです。
たとえば、平均して年に200台の自転車をサークルズが届けてきたとしましょう。
創業から20年。
単純計算で、4000台の自転車がサークルズの手を離れ、この世界へ漕ぎ出していったことになります。

4000台。
なかなか大きな数字です。
ちょっとした街なら埋まってしまいそうなくらいの数かもしれません。
その自転車たちは今、どこで何をしているのでしょうか。
毎朝の通勤路で、雨に打たれながらも走り続けているものがある。
ガレージの片隅で、次の冒険を待っているものもある。
持ち主の暮らしが変わって、乗られる機会を失っているものも、きっとあるはずです。
サークルズを始めるとき、自分の中でひとつ決めていたことがありました。
売って終わり、という関係にはしたくない。
それだけは、かなりはっきりと考えていました。

以前、BIKE FRIDAYの話の中でも書きましたが、自転車は納車した日が完成ではありません。
むしろそこから、長い時間が始まる。
その時間に、できるだけ関わり続けたい。
そう思って、この仕事を始めたことを今でもよく覚えています。
自分たちが届けた4000台の行方を気にかけること。
必要なときには、ちゃんと手を差し伸べられること。
それが責任だと思っていますし、Circlesという場所の理由でもあるのだと思っています。
鉄という選択
あらためて、なぜサークルズがスチール、つまり鉄を中心に扱ってきたのか。
その話をしておきたいと思います。
理由はわりと単純です。
鉄という素材が、わたしたちの考える「終わりのない時間」に、いちばん近いからです。

もちろん、現代の自転車において、カーボンやアルミが優れた素材であることは理解しているつもりです。
速さや軽さを求めるうえで、あれほど合理的な材料はありません。
でも、その一方で、寿命を迎えたときの再生は簡単ではありません。
壊れたら終わり、になりやすい。
加えて、時代ごとの大きな流れのなかで、大量に消費されていく側面もやはりあると思います。
鉄は、そこが少し違います。
重いですし、懐古的にも見えたりもするでしょう。
でも、人が手を入れながら長く付き合っていける。
直しやすいし、やり直しがきく。
そこがとてもいいのです。

フレームが曲がったり、折れたりしても、熱を入れて、力をかけて、もう一度戻せることがある。
古い規格になっても、工夫次第で今の使い方に寄せていくことができる。
できるだけ長く使われる自転車を増やしたい。
その気持ちは、サークルズを始める前、量販店で働いていた頃からずっと変わっていません。
だからサークルズという場所も、そのための仕組みとして作ってきたのだと思います。
手に入れやすいこと。
長く使えること。
直せること。
その前提があってはじめて、自転車はただの消費物ではなく、人生のための道具としての性格を持ち始めるのだと思います。
拾い上げ、書き換える
ここで、ひとつの製品の話をさせてください。
CRUST BIKESが作る「Clydesdale Cargo Fork」。
以前にも一度文章化をしましたが、古いMTBやクロスバイクのフォークをこれに差し替えるだけで、一瞬にして荷物を運ぶカーゴバイクへと変えてしまう魔法のようなパーツです。

世の中には、役割を終えたと見なされ、ガレージの奥に置かれたままの古いフレームが無数にあります。
でも、そういうものを拾い上げてくれる人もいます。
「まだ走れるじゃない」
「少し手を入れれば、もっと面白くなる」
そう言って、自分なりの形に作り替え、また路上へ連れ出していってくれます。
わたしは、その行為をかなり強い意志だと思っています。
他人が手放したものを拾い上げること。
そこに手を入れて、自分の暮らしに合う形へ書き換えること。
それは、選ぶことに責任を持つ、ということでもあるからです。
カスタムオーダーのバイクも、SimWorksのプロダクトも、根本にはこの「拾い上げ、書き換える」という感覚があります。
誰かが決めた完成形を、そのまま消費するのではなく、自分の生活に合わせて調整し、直し、続けていく。
その意志が残っている限り、文化はそう簡単には終わらない。
わたしはそう思っています。
球体ペイントという装置
とはいえ、形あるものはいつか壊れます。
金属疲労でクラックが入ることもある。
激しい転倒で深く傷つくこともある。
「もうこれはダメだろう」
そう思う瞬間もあります。
でも、サークルズにはその先があります。

壊れたフレームを切り離し、溶接し、強度を取り戻す。
そして、その痕跡ごと塗り直して、また路上へ返していく。
そのために、わたしたちには溶接サービスと球体ペイントがあります。
球体ペイントがやっているのは、ただ色を塗り直すことではありません。
古い塗膜を剥がして、下地を整えて、新しい色を重ねていく。
その工程を見ていると、壊れたものを隠しているというより、きちんと引き受けて、もう一度始められる形にしているように見えます。
それは少し大げさに聞こえるかもしれませんが、物事を洗い直す作業に近い気がします。
球体ペイントから上がってきたフレームを、ふたたびオーナーが手にしたとき。
あの目の光り方は、たまに新車以上です。
一度だめになりかけたものが、また走れる形で戻ってきた。
その時間を知っているからだと思います。
終わりなき循環作業
修理する。
形を変える。
塗り直す。
そしてもう一度、路上へと走り出す。
わたしたちサークルズの仕事は、ただ自転車を売ることではありません。
この終わりのない循環を、文化として皆さんと共有することなのだと思っています。

ゴミ捨て場へ行くはずだった一台が、修理によってもう一度路上へ戻る。
球体ペイントによって輝きを取り戻し、誰かの宝物であり続ける。
そういうことが実際に起きるから、わたしたちはこの場所を続けています。
あなたの手元にある自転車はどうでしょうか。
少し疲れているだけかもしれません。
ただ、触る人がいなかっただけかもしれません。
もしそうなら、いつでもわたしたちのところへ持ってきてください。

あなたと、あなたの自転車が、もう一度走り出す方法を、わたしたちは知っているかもしれません。
そしてその行為は、思っているよりずっと楽しいことだというのも、たぶん知っています。
それではみなさんごきげんよう、また来週お会いしましょう。