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「週刊 球体のつくり方」 Vol.50

既成概念をぶっ壊す、ということ

「週刊 球体のつくり方」も、今回で50回の節目を迎えました。

店のこと、自転車のこと、この街のこと、社会のこと。
その時々で心に引っかかったものを言葉にしてきました。
出会った人に「読みましたよ」と声をかけてもらえること。
そんな温かみのある反応に、ずいぶん支えられてきました。
本当にありがとうございます。

今回はせっかくの節目ですので、サークルズが創業以来ずっと大切にしてきた言葉について書きたいと思います。

「既成概念をぶっ壊せ」

わたしたちの社訓のひとつです。
品よく言えば「常識を疑え」でしょう。
でも、それではちょっと弱い、疑うだけでは少し足りないのです。宇多田さんの歌のように、自分の手で壊さなければいけない瞬間が、間違いなくあるのです。

そんな荒っぽい覚悟とヒューマニティを込めてみたら、こんな言葉になったというわけです。

先日、ある取材を受けました。
ありがたい機会でしたので喜んでお受けしたのですが、いざ話が始まるとすぐに、相手の中に「すでに完成した物語」があることに気づきました。

「こういうことですよね?」 「つまり、こういう考えですね?」

用意された枠の中へ、こちらの言葉がパズルのピースのように押し込まれていく。

取材とは本来、目の前の人間から「まだ見えていないもの」を探る作業なのだろうと思っていました。 でも、そこにあったのは、現実というよりも、あらかじめ組み立ててある物語を優先する「型」でした。

「地方の自転車屋とはこういうもの」
「経営者とはこういうことを言うもの」
「新しい働き方とはこういうもの」
「若者とはこういう価値観を持っているもの」
「古い業界はこう変わるべきだ」

世の中には、こうした見えない「型」があふれています。
でも、現実はいつももっと複雑で泥臭く、そんなにきれいな見出しの中には収まらないのが常なのです。

わたしたちが本当に壊したいのは、古いものそのものではありません。
本当に壊すべきものとは、そうした「型」によって作られ、目の前の現実を見えなくさせてしまう「枠」のほうなのです。

話は少しそれますが、毎週、大河ドラマ『豊臣兄弟!』を楽しく見ています。
なかでも話題となった浅井長政の姿は、やはり心に刺さるものがありました。 信長との同盟(未来)を選べば父や過去の同盟国を裏切ることになる。 彼は覚悟を持ちながらも、旧来の義理や親子の情という「既成概念」を断ち切れず、滅びゆく道を選びました。 優しさが、結果として自分を縛る枠となり、時代の荒波の中へと飲み込まれていきました。

壊すべきものがある。でも、残すべきものもある。
変えなければ腐るものがある。でも、変えてしまったら失われるものもある。
そのあいだを揺れながら、人も、店も、会社も、社会も進んでいくのだと思います。

サークルズにとっての「既成概念をぶっ壊せ」も、ただ何にでも反抗しろという意味ではありません。

壊すということは、ときに残酷です。何かを裏切ることかもしれない。 けれど、その残酷さを引き受けてでも壊さなければ、守りたい未来までもが一緒に沈んでいってしまうのでしょう。

自転車という道具は、古くて、新しい乗り物です。

人間の力で進み、風を受け、坂で己の重さを感じます。
その本質はけっして変わりません。

でも、自転車屋のあり方は変わっていいと思っています。
流通の仕方も、働き方も、売り方も、伝え方も、コミュニティのつくり方も変わっていい。

「個人商店の限界はここまで」
「メーカーと小売の関係はこうあるべき」
「お客さんとはこういう関係であるべき」
「地方の店にできることはここまで」
「海外ブランドとの付き合い方はこういうもの」

そういう枠をひとつずつ疑い、必要なら壊してきたからこそ、今のサークルズがあるのだと思います。

でも同時に、壊してはいけないものもあります。

人をちゃんと見ること。
良い道具をきちんと扱うこと。
作り手への敬意を忘れないこと。
街に根を張ること。
仲間を大切にすること。
自分たちの言葉で語ること。

ここまで壊してしまったら、それはただの「商売」になります。
数字だけを追い、流行だけを追い、効率だけを求めるなら、それはもうサークルズではありません。

だから「既成概念をぶっ壊せ」という言葉は、実はとても繊細な言葉です。 乱暴に見えて、かなり慎重な言葉であると思っています。

何を壊すのか。何を残すのか。
どこまで変えるのか。どこから守るのか。
その問いから逃げないこと。それが、この言葉の本当の意味なのかもしれません。

50回も連載を続けてくると、自分が何を大切にしていたのかが、かなり正確に見えてきました。 でも同時に、言葉そのものが、いつの間にか型になってしまう怖さも感じています。

たぶん一番怖いのは、他人の既成概念ではなく、自分たち自身の中にある既成概念です。

誰かが勝手に決めたストーリーに違和感を持てる。
業界の古い慣習に文句が言える。
政治や社会の古さにちゃんと気づける。
でも、自分たちの中にこびりついた「まあ、こういうものだよね」という感覚には、案外気づけないものです。

長く店を続けていると、成功体験も増えます。
うまくいったやり方も増えます。
大切にしてきた言葉も、守ってきた文化も育っていきます。
それは財産です。でも同時に、それらもいつの間にか「型」となってしまうのでしょう。

「既成概念をぶっ壊せ」とは、結局のところ、自分たちの型をも壊し続けるという覚悟のことなのだと思います。

サークルズはこれからも、ただ新しいものだけの店でありたいわけではありません。そして、古いものをありがたがるだけの店でもありたくありません。

大切なものを残すために、変わり続ける。
変わり続けるために、何度でも自分たちを疑ってみる。
その先にしか、次の景色というものは見えてこないのだと思います。

今日もまた、目の前の小さな既成概念をひとつ見つけて、必要なら壊してみたいと思います。

たぶん、そこからしか始まらないのです。

「週刊 球体のつくり方」からのお知らせ

最後に、読者のみなさまへ大切なお知らせとお礼です。

毎週、配信を続けてきたこの「週刊 球体のつくり方」は、今回の第50回をもちまして、一度筆を置き、すこし充電期間に入らせていただきます。

振り返れば、店のこと、自転車のこと、日々変わりゆく社会のこと…。 拙い言葉ではありましたが、毎週こうして自分の外側へ言葉を放り投げることで、私自身が一番、自分たちの足元を確かめさせてもらっていたように思います。

そして何より、画面の向こうで読んでくださるみなさまの存在と、時折いただく「読んだよ」の声が、どれほど執筆の支えになっていたか分かりません。本当に、ありがとうございました。

自分の中にこびりついた「型」を壊し、また新しい景色をお見せできるように。しばらくは言葉を紡ぐ手を少しだけ休め、泥臭く、新しい現実と向き合ってまいります。

またいつか、新しくなった「球体のつくり方」でお会いしましょう。 それまで、みなさんごきげんよう。

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田中 慎也

空転する思いと考えを自転出来るところまで押し上げてみた2006年。自転し始めたその空間は更なる求心力を持ちより多く、より高くへと僕を運んでいくのだろうか。多くの仲間に支えられ、助けられて回り続ける回転はローリングストーンズの様に生き長らえることができるのならば素直にとても嬉しいのです。既成概念をぶっ飛ばしてあなただけの自転力に置き換えてくれるのなら僕は何時でも一緒に漕ぎ進めていきたいと思っているのだから。
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