OMNIUM CXCという自転車の存在

OMNIUMと聞くと、カーゴバイクを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
そんなラインナップの中に、このCXCがあることを知った時は少し不思議に思いました。
しかも、そのシルエットは最近では珍しくなったホリゾンタルに近いクロモリフレーム。完成車として組み上げてみると、その美しさに思わず見入ってしまいました。

なぜOMNIUMは、こんな一台を作ったのでしょうか。
カーゴバイクを作るブランドが、なぜあえて”普通の自転車”をラインナップしたのか。
その答えは、スペック表だけでは見えてきません。
一見すると、太いタイヤが入り、フェンダーやラックを取り付けることができ、外装変速にもシングルスピードにも対応する、いわゆる多用途なスチールフレームです。
街乗りにも使える。
グラベルにも行ける。
荷物を積んで旅にも出られる。
こう書くと、近年よくある「何でもできる自転車」のように聞こえるかもしれません。

けれど、CXCの細部をじっくり見ていると、単にいくつもの用途を足し算して作られた自転車ではないことがわかります。
なぜ、この自転車はあえて重さを残しているのか。
なぜ、太いタイヤが入るのに、機敏なハンドリングを持っているのか。
なぜ、完成形をまとめず、いくつもの組み方を残しているのか。
その理由は、OMNIUMというブランドが、どこから生まれたのかを知ると、その意味が少しずつ見えてきます。
メッセンジャーがつくった自転車

OMNIUMは、コペンハーゲンのメッセンジャーシーンを背景に生まれたブランドです。
創業者のJimmi “Jumbo” Bargisenは、メッセンジャーカンパニーBy-Expressenに関わりながら、日々の配送現場で本当に使える自転車を考えてきました。
今ではOMNIUMと聞けば、荷台が前方に伸びたカーゴバイクを思い浮かべる人が多いと思います。
けれど、OMNIUMの自転車が多くのヨーロピアンサイクリストに支持された理由は、単にたくさんの荷物を運べたからではありません。

荷物を積んでも、速く走れること。
狭い街中でも、普通の自転車に近い感覚で扱えること。
毎日使い続けても、壊れにくいこと。
つまり、運ぶ能力と自転車としての軽快さを、分けて考えなかったということです。
CXCにも、その考え方ははっきりと残っています。
軽さより、止まらないこと

CXCのスチールフレームは、現在市場に存在するグラベルバイクなどと比べれば、決して軽量ではありません。
数字や容姿だけを見れば、もう少し軽くできるのではないかと思う人もいるでしょう。
しかし、メッセンジャーにとって自転車とは、休日にだけ乗るためだけの道具ではありません。
毎日乗る。
雨の日も走る。
段差を越える。
荒れた舗装路を通る。
荷物を持って、何度も止まり、また走り出す。

壊れれば、その日の仕事そのものが止まります。
そう考えると、CXCに残された重さは、単なる鈍さではなく、日々使い続けるためのマージンとして見えてきます。
極限まで削るのではなく、簡単には壊れない方向へと厚みを残すという感じでしょうか。
持ち上げればそこまで軽くはない。
けれど、走らせるとぜんぜん鈍くない。
CXCは、そういう種族の自転車だということです。
街では、安定より反応が必要になる

CXCのジオメトリーを見てみると、現代のグラベルバイクとしては、かなり立ったヘッド角が与えられています。
荒れた下りでどっしりと構えることよりも、ハンドルを切った瞬間に反応する味付けです。
信号が変わる。
前の車が止まる。
歩行者が進路を変える。
路肩に段差が現れる。

街では、一直線に長く走る時間よりも、細かな判断を繰り返す時間の方が長いものです。
そこで必要になるのは、高速域での絶対的な安定感だけではありません。
止まり、曲がり、避けて、また加速する。
CXCの機敏さは、そんな街の動きに向けて作られているように感じます。
太いタイヤが入るからといって、山の下りに特化したグラベルバイクではない。
街の中を素早く走るための反応を残したまま、路面が悪くなっても止まらない。
そこに、CXCらしさがあります。

キビキビと反応するトラックフレームで街中を走り抜けるのは、本当に気持ちがいいものです。
実は以前、そんなトラックフレームで100kmを超えるライドを何度か走ったことがあります。
決して長距離を走るためだけに設計されたジオメトリーではありません。
それでも、不思議なくらい気持ちよく走り切ることができました。
だからこそ、このCXCにもどこか通じる魅力を感じます。
街中では軽快に反応し、そのまま郊外へ走り出しても楽しい。
今回の完成車も、そんな一台になるよう組み上げました。
街そのものが、ひとつのコースになる

CXCはBB位置も比較的高く、リアセンターも短く設定ができます。
こうした数字は、シクロクロス由来の設計として説明することもできます。
けれど、メッセンジャーの目線で見ると、それだけではないように思います。
縁石。
工事区間。
狭い路地。
濡れた石畳。
道路の継ぎ目。
街には、意識しなければ見落としてしまうような小さな障害物が、いくつもあります。
ペダルを打たずに抜けれること。
車体を素早く切り返すこと。
低速でも扱いやすいこと。
そう考えると、シクロクロスと都市走行は、OMNIUMにとってそれほど遠いものではないのかもしれません。

泥のコースを走るか。
街の雑踏を走るか。
場所は違っても、状況に合わせて身体と自転車を動かし続けるという意味では、よく似ています。
組み方を決めすぎない

CXCには、外装変速、シングルスピード、内装変速、ベルトドライブなど、いくつもの選択肢が残されています。
ドロップハンドルで組むこともできます。
フラットバーで組むこともできます。
ラックやフェンダーを取り付けることもできます。
これを単なるカスタムの楽しさとして見ることもできます。
ただ、仕事道具として考えれば、もう少し切実な話になります。

ローメンテナンス性を求めて内装変速にする。
壊れる場所を減らすためにシングルスピードにする。
長い距離を走るために外装変速を使う。
雨や塩害を考えて、ベルトドライブを選ぶ。
持っている部品や、走る街や、必要なギア比に合わせて、自分で成立させることができる。
CXCは、完成車としてひとつの答えを押しつけるのではなく、乗り手が自分の答えをつくる余地を正しく残しています。
それは親切というよりも、自分の道具は自分で決めるという、メッセンジャーらしい合理性なのだと思います。
太いタイヤは、冒険のためだけではない

CXCには、最大45mm幅のタイヤを装着できます。
今の時代なら、それをグラベルやバイクパッキングのための装備と考えるのが自然です。
けれど、もともとの出発点は、もっと日常的なところにあるのではないでしょうか。
当然毎日走る。
雨の日も走る。
荒れた舗装を走る。
工事中の道を抜ける。
荷物を背負ったまま、パンクの可能性を減らす。

太いタイヤとフェンダーは、休日の冒険のためだけではなく、平日にきちんと目的地へ着くためのものでもあります。
街で毎日使えるように考えた結果として、たとえ舗装路が終わっても走り続けることができる。
一般的なグラベルバイクが、未舗装路から街へ降りてくる自転車だとすれば、CXCはその逆なのでしょう。
街から走り始め、そのまま道が細くなり、舗装が途切れても、引き返さずに進むことができる。
そんな自転車です。
仕事と遊びを分けない

メッセンジャーにとって、自転車は仕事道具です。
けれど、それだけではありません。

仕事が終われば、そのまま仲間と走ります。
レースにも出ます。
街の外へ向かいます。
キャンプに行きます。
別の国まで走っていきます。
仕事と遊び。
日常と旅。
舗装路と未舗装路。
それらを、きれいに分ける必要はないということです。

CXCの多用途性も、さまざまな市場の要望を一台にまとめたというより、メッセンジャーの生活そのものが、もともと用途の境界を越えていたから生まれたものではないかと思います。
朝は仕事に使う。
夜は遠回りして帰る。
週末はタイヤの空気を少し抜いて、街の外へ出る。
自転車は同じままでも、走る理由は変わっていきます。
中途半端ではなく、分けていない

CXCをスペックだけで見ると、少し矛盾した自転車に見えるかもしれません。
重いのに機敏。
頑丈なのに速い。
太いタイヤが入るのに、ハンドリングは鋭い。
荷物を積めるのに、重厚なツアラーではない。
何かひとつの用途に特化した自転車と比べれば、どこか中途半端に見えるかもしれません。
けれど、OMNIUMの出自を知れば、その見え方は変わります。
CXCは、用途を増やしすぎた自転車ではありません。
仕事、移動、遊び、旅を、最初から切り分けずに丁寧に考えた自転車です。
速さと丈夫さを分けない。
街と郊外を分けない。
日常と冒険を分けない。
必要なものをすべて残した結果として、この形になった。
だからCXCは、最新のグラベルレースバイクを探している人には、少し違うかもしれません。
軽さを最優先する人にも、もっと適した選択肢はあります。

けれど、一台の自転車を長く使いながら、暮らしに合わせて少しずつ変えていきたい人には、これほど面白いフレームもほかに多くはありません。
完成車として組み上がった今も、この自転車はまだ完成ではありません。
最初は通勤車だったものが、フェンダーを外してグラベルバイクになる。
数年後にはラックを付けて旅の自転車になる。
さらに時間が経てば、内装変速やシングルスピードに組み替わるかもしれない。
そんなふうに、乗る人の暮らしに合わせて少しずつ姿を変えながら走り続けていく。
OMNIUM CXCとは、そんな自転車なのです。
Circles Tailored Complete Bike
そんなCXCの魅力を、できるだけ素直に表現したい。

このブログで書いてきた”CXCらしさ”を、そのまま一台の完成車として形にしたい。そんな思いで、今回Circles Tailoredでは完成車を組み上げました。

コンポーネントには、耐久性と信頼性に優れたSHIMANO CUES Polish Silver Editionを採用。細身のクロモリフレームには、やはりシルバーのパーツがよく似合います。





ハンドルやステム、シートポストにはSIMWORKSを組み合わせ、ホイールはVELOCITY Aeroをベースに一本ずつ手組みしました。タイヤにはTERAVAIL Updraft Light & Suppleを選び、舗装路での軽快さと、少し路面が荒れた場所でも安心して走れるバランスを意識しています。



どれも特別に派手なパーツではありません。
けれど、それぞれに理由があり、このCXCというフレームの魅力を引き出してくれるものばかりです。
街中を軽快に駆け抜け、そのまま郊外へ足を伸ばす。
そんなCXCらしい走りを楽しめる一台として組み上げました。
ぜひ実車をご覧いただき、この完成車の雰囲気や、ホリゾンタルに近いフレームならではの美しいシルエットを感じていただければ嬉しいです。

| Frameset | OMNIUM CXC V3 Frame Kit |
| Headset | SIMWORKS Sim Heads |
| Handlebar | SIMWORKS Wonderer Bar |
| Stem | SIMWORKS Rhonda |
| Bartape | BTP Cork Bartape – Coffee Ground |
| Seatpost | SIMWORKS Beatnik Post |
| Saddle | WTB Solano – Cromoly |
| Component | SHIMANO CUES Polish Silver Edition |
| Front Hub | SHIMANO HB-R7070 105 Front Disc Hub 12mm Thru |
| Rear Hub | SHIMANO FH-R7070 105 Rear Free Hub 12mm Thru |
| Rim | VELOCITY Aero |
| Spoke & Nipple | SIMWORKS Peregrine Spoke – 14 Straight Gauge |
| Tire | TERAVAIL Updraft Light & Supple |