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BIKE to お燈まつり

まだ学生の頃、ファッション誌のメンズノンノで写真家の石川直樹が連載していた「星の航路、書物の海」の記事中で、和歌山の新宮で行われる「お燈まつり」の存在を知った。
白装束に身を包んで、火の点いた松明を持った多くの人々が山の斜面にしゃがみ込みながら一様に同じ遠くの方を眺めている幻想的な写真だったと記憶している。
祭のクライマックスへ向けて高揚していく直前の一瞬の静寂といった感じで、とても印象に残っていて今でもたまに思い出す。祭に意識的に興味を持つようになったきっかけのひとつでもある。

お燈まつりは毎年2月6日に新宮の神倉神社で催行される。記録に残っているだけでも1400年以上昔から続いるそうだ。
1週間前(最近は当日のみ?)から白い物しか口にしないようして身を清め、当日は白い衣装を着込んだ2000人にもおよぶ上り子が山頂で火を灯した松明を持って麓まで一斉に駆け下りてくる勇壮な火祭りである。
カミサマが山の上にある大きな岩を依代として降りてきて、それを松明に託して街から家まで迎え入れるという、磐座信仰をはじめとする基層信仰のカタチを色濃く残す貴重な祭だ。

ずっと頭の片隅にあった祭の風景。石川直樹の強烈な移動力からしたら何でも無い距離だけれど、新宮は本当に遠くてなかなか見に行けるチャンスは無かったのだけれど、伊勢に新しく家を借りて足がかりを作った事や、新宮に友人ができた事をきっかけに、今年はようやく拝見の機会を作る事ができた。

伊勢神宮のルーツを遡る

遊びのエリアを拡大するための前線基地として伊勢の宇治山田の駅近くに新しく家を借りてみた
仕事終わりに移動して、翌朝イチからライドやハイクやサーフィンに向かったり、早朝のお伊勢参りしたりできるので、使ってみたい人は連絡下さい。

朝6時に出発し、外宮にお参りした後、宮川沿いの気持ち良い道を遡っていく。
世界的多雨地帯である大台ケ原を源流に持ち、一級河川の水質検査の結果から全国一の清流として知られる宮川。
天照大御神を奉る神宮を作る場所を探していた倭姫命が、前5年この地に目をつけたのも美しい宮川があっての事だったんだろう。

まずは、今の伊勢神宮ができる前に天照大御神を祀った瀧原宮(たきはらのみや)を目指す。

平安時代に浄土信仰の高まりを受けて天皇や貴族が熊野を参詣するようになり、日本に旅という概念が生まれたのもこの巡礼路からだった。世界遺産の熊野古道として知られる巡礼路を歩く旅は江戸期に一般庶民まで広まり、特に伊勢と熊野を結ぶ伊勢路は主要巡礼路として栄えたようだ。そのルートを現代の新しい国道で辿っていく。

三重県は日本第三位の日本茶生産量を誇る。これまでどこにそんな茶畑があるのか分からなかったが、宮川沿いの河川段丘に延々と丸く刈り込まれたお茶の樹が広がっていた。

熊野灘を望む紀伊長島-新宮

今回は時間が限られているため、紀伊長島から新宮までは輪行した。11時の電車を逃して、次は14時。やっぱり和歌山は遠い。
お正月に試走で新宮まで走っているので、その時の写真を少し。熊野灘を望む海辺の道はとても気持ち良かった。

新宮

電車に乗りそびれた結果、新宮到着はすっかり遅くなってしまった。あわてて熊野速玉大社へ向かう途中、あちこちで白装束をまとった上り子達に出くわす。
19時に会場の神倉神社へ集合する前に、熊野速玉大社、阿須賀神社、妙心寺の3ヶ所を参拝する必要があり、みんな出歩いているのだ。
上り子同士がすれ違う際には松明を打ち合わせながら挨拶するので、カンコンといい音が響く。

お燈まつり

19時、2000人ちかくの上り子が急石段を登って、神倉神社山上に集合する。最初はちらほらと、そして徐々に大勢に。
あの狭い山頂に本当に2000人も入るのだろうかと心配しながら石積み階段の奥に消えていく上り子を見守る。

20時を過ぎると上の方から歓声が聞こえてきて、ほどなく速さを競って降りてくる先頭がものすごいスピードで駆け下りてきた。
源頼朝が寄進したとされる古くて急な石段はガタガタで普通に降りるのも困難で、踏み外すと転げ落ちて大怪我必至。五段とばしぐらいで飛ぶように降りてくるのは本当にすごい。話しを聞くと、”落ちて行く途中にたまに足を着く”感じなのだそう。

ほどなくして、残りの上り子が次々に降りてくる。酔っ払って足元が覚束ない人もちらほら。

上り子として参加した友人から山上の景色の写真をもらった。
松明に煌々と火が灯りとても綺麗だけれども、小競り合いやケンカも多く、松明で殴り合っているらしい。

神社の鳥居をくぐり、小さな橋を渡って下界に戻ると、女性陣が沿道につめかけて待ち構えている。
山は女人禁制。火を下ろして各戸に持ち帰るには、下で待つ役割も必要なのだ。

一通りの祭礼が終わり、みんな帰路についていく。

祭の後は、神倉神社からすぐ近くのYouth Library えんがわへ。
地元の図書館の自習スペース環境が悪いので、中高生が勉強できる自習スペースとして開放し、夜はゲストハウスとして旅行者を泊める事ができる場所を友人達が運営している。
老若男女、国籍多様な人達が集まり、若い子達の世界を広げるのに一役買っている面白い場所だ。隣はこちらも若者の創業支援としてカフェがオープンしていて、とても美味しいコーヒーがいただける。

夜中までお世話になり帰路へ。
新宮泊だと始業に間に合わないため、熊野市に移動して始発まで野宿する。
最低気温は1.2℃だったようだけど、ビビィと寝袋(モンベル#3)で問題無かった。
目の前の海には篝火を焚いた船が無数に浮かんでいて綺麗だった。

20歳ぐらいで石川直樹を初めて知った時、彼はミクロネシアで星の動きを利用した航海術を学んでいた。同じぐらいの年齢なのにどんな世界を見ているのだろうととても気になった。その後、色々なメディアで見かけるようになるのだけど、彼が凄いのは困難を誇って冒険そのものを目的としないところ。見たい景色がある、興味がある文化について知りたいという好奇心を強烈な移動力をもって”旅行”して、それを写真や文章で伝えているだけなのだ。

こうやって他所の祭を観に行く事は、”驚きたい”という石川直樹の行動原理と同じである。自転車やキャンプはそれを楽しむ手段だ。旅の自由が無く、巡礼だけがそれを許された時代の道を辿りながら、その自由の事を思った。#大祭風はまだまだ続く。


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TEXT,PHOTO by Monjya / PHOTO by 後呂 孝哉,野中 亮伸