冒険のはじまり
明朝4時15分。枕元で携帯のアラームが鳴り、がばっと体を起こす。外はまだ薄暗い。無事に目が覚めたことにほっとするも、なんだかどきどきして落ち着かない。私にとって初めてのライドイベントであるRIDEALIVEの当日の朝は楽しみ、という気持ちはもちろんだが緊張と不安も同じくらいあったように思う。
RALはサークルズのライドイベントとして2年前に始まり、「サークルズスタッフの夏休み」という表現がしっくりとくるような、できるだけ素朴な考え方が根本にある。とにかく直球的にシンプルに、サークルズが大好きな遊び(=自転車)を探求していった先に生まれたものがRIDEALIVEだ。(池山さんブログ参照)
自転車にキャンプ道具を積み、最終目的地を目指してそれぞれが好きなルートを踏んでいく。今回の浜松編ではアンバサダーであるサークルズスタッフかもちゃん、浜松に自転車屋を構えるGreencogさん、そして同じく浜松に今年の4月にオープンしたばかりの自転車屋HAPPY SLAPPYのハッピーさんの3名が考案した3つのルートが用意された。
そのルート内容は、かもちゃんが「SummerChallenge!!」ルート、Greencogさんが「浜名湖一周」ルート、ハッピーさんが「水上アクティビティを楽しむ」ルートとなっており、最終目的地は浜松の村櫛町にある“タリカーナ”という浜名湖の湖畔沿いに新しくできたばかりのキャンプ場である。
今回私が走ることになったのは、RIDEALIVE初参加に相応しくかもちゃんのSummerChallengeルート。その名の通り”挑戦”することにした。
新城駅に集合し、鳳来山という峠を越えて浜松を目指すという今回の中では最も過酷と言われたルート。果たしてどんなライドになるのだろうか。どんな景色が見えるだろう。完走しきれるかな、、そんなふうにいろんな想像を巡らせながら、私の夏の挑戦は幕をあけた。
輪行
地元の駅から出る始発で新城駅に向かう。
自転車なら自宅から5分ほどで駅に到着できるが、この日はただ電車に乗るのではなく輪行をしなければならなかったので発車時刻の30分前に家を出た。
輪行とは、電車はじめ公共交通機関を利用して自転車を運ぶことである。そしてそのためには自転車を少し分解してコンパクトにし、輪行袋という専用の袋に入れるという作業が必要になる。分解して袋に入れる、と聞くととても難しいことのように思えるが実際はそんなことはなく、2〜3度練習すれば時間はかかってもすぐに1人でできるようになるので、習得しておくととても便利な手段である。
私も以前借りていたシングルバイクで京都や三重に行った時はこの輪行という手段を使った。サークルズでスタッフさんに教えてもらい、輪行袋に自転車を詰める練習を何度かしたら当日1人でもきちんと輪行を成功させることができた。
ただ今回は自分のALL-CITY スペースホースになってから初めての輪行である。ハンドルもドロップに変わっているし、分解部分である前輪にはキャンプ道具を積む用にサイドキャリアが取り付けてあるので分解の仕方も一手間増えた。もちろんサークルズで何度か練習はしたものの、新しい自転車でキャンプ道具を抱えて行う初めての輪行になるので余裕を持って駅に到着した。
通行人の邪魔にならない場所で自転車を壁に立てかけ、分解作業を始める。前輪を外してフレームに括り付け、後輪側から袋にしまっていく。練習通りキャリアをつけたまま無事に袋に収納できたのでこれで電車に乗せることができるとほっとし、片腕に自転車を担ぎもう片方で2つのパニアバッグを持って改札へ向かう。これがまた重くて大変だが、このあと普段なら自転車で向かうことのない場所で自転車に乗れると思うと頑張れる。
自転車は車内で場所をとってしまうために1番前か後ろの車両に乗るのがいいとされているので、ホームにつくと先頭か最後尾で待機するようにしている。
自転車とともに電車に乗り、途中で同じくアーリーバーズスタッフのにしぱんと参加者で今回初めてのライドイベントになる女の子(ななこ)と合流して新城駅に向かう。
8時20分ごろ新城駅に着くと、もうかもちゃんルート組のメンバーはほとんど集まっていた。ここまで来る方法も自由で、私たちのように輪行して来る人の他に新城に前日入りしてテント泊していた人や愛知から自走で来た人、夜勤明けで寝ずにここまで来ました、なんて人もいた。前日からそれぞれのRIDEALIVEは始まっているのだ。
集合場所に着いて最初にしなければならないことが、解体した自転車の組み立て作業だ。前輪を元に戻し、走る準備を整えなければならない。安全に走れるようにタイヤをきちんとホイールの中央にくるようネジとレバーの締め方を調整し、タイヤを回転させて変な音がしないか確認する。かもちゃんに最終チェックをしてもらい、合格をもらってからキャリアにパニアバッグやキャンプ道具を取り付けたらさあ、準備は万端。
SummerChallenge!!
集合時刻の9時。天気は快晴で予報によると気温は日中34度くらいまで上がるという真夏日だった。
走る準備が整ったところで、新城メンバーのみんなで自己紹介をしてから今回のルートの説明や1日のスケジュールを聞く。予定通り鳳来山を登って浜松まで降りるという聞こえはシンプルだがかなりのアップダウンがあるルート。
グループライドなので“止まる”とか“避けて”とか“右に曲がる”等の簡単なサインを全員で共有し、いよいよだと気持ちを引き締めつつも、みんなで走るという安心感でやるぞーっという気合いが増していた。今回の新城峠越えルートは、参加者の中で女性は私とにしぱん、ななこの3人のみ。一列になって走るので均等にばらけて男性陣の間に入れてもらい、いざ浜松に向かって挑戦の第一歩目となるペダルを踏み出した。
新城は山が近い。顔をあげれば山の濃い緑が連なっており、目線を下げると鮮やかなキミドリの田んぼが広がっている。この日は快晴なので緑の山と青い空のコントラストも美しかった。走り出していきなりこんな景色に出会うのだから、一気にライドに夢中になるのはいうまでもない。道の脇には少し古そうな木造建の大きな家がポツンポツンと一軒ずつ建ち、庭には物干し竿に子供の学校着やキャラクターのタオルなどたくさんの洗濯物が余裕を持って干されている。名古屋ではなかなか見ないこの景色が個人的には好きで、ゆったりとした時間の流れやそこに住む人たちの暮らしぶりを想像してほっこりとする。
平たんな道を抜けて少しずつ山へ入っていくと草や緑の青くさい匂いを感じるようになり、その匂いが小さい頃毎年お盆休みにおばあちゃん達と山に遊びに行っていたときのことを思い出させてじーんとし、不思議なことに懐かしさで涙が出そうになった。幼少の頃の思い出はたとえ記憶に薄くても体が覚えているものなんだなと実感した瞬間であった。
そして少しずつ斜面が急になり、本格的な上り坂が続いていくのが見えてきた。まだおぼつく変速をフロントもバックも軽いモードに変えてから、グリップを握り直しペダルを踏み込む。すると変速を軽くしたので思ったよりもずっと簡単にペダルが回った。この斜面でこの軽さはすごい、と感心しながらも、軽すぎて逆にバランスが取りづらくハンドルがふらつく。もう少し重くした方が安定して踏めるかな、と重くしてみるもやはり重いとペダルを一回転しきるのにかなりの体力と筋力を使うとわかったので軽い方に戻す。
このような急な坂道を登るとき、自分の登りやすいペダルの重さや体の使い方は人によって様々で、ペダルが軽い方が楽な人もいれば重くして漕ぐ回数を減らす方が楽な人もいるそうだ。私は自分の楽なポジションがどのあたりになるのかそこから探らないといけなかったので、体だけでなく頭も使いながら急斜面を踏んでいくことが予想外で苦しさを増した。それでもなんとか地面に足はつけずにペダルを踏み続ける。必死の思いで自転車を進めていくが、カーブを曲がってもまだ坂は続き、2つ目のカーブを曲がって1つ目よりももっと長い上り坂が続くのを目にした時は意気消沈しかけた。
そんな甘いわけないか、と自分に言い聞かせて無心で漕ぐ。久しぶりに喉に血の味がしてバスケばかだった時代を思い出したが、そんな時に一緒に登っているメンバーのみんなと「うわーきついっ。」「がんばろーっ!」と声を掛け合えたことが励みになったし、気持ちの切り替えができたのでとてもありがたかった。
どこまで続くのかと先が思いやられた坂も一度落ち着き、駐車スペースのある広場で水分補給を兼ねて休憩する。
こんなふうに少しの時間止まるだけでも、みんな水分補給はもちろんだが糖分補給も欠かさないようにしていたのが印象的だった。水分・糖分の両方ともこまめに取ることがやはり大切なのだという。
私も真似て、補給食として持参してきたPFMの焼き菓子を食べる。持ってきたのは、素早いエネルギー補給ができる蜂蜜と筋疲労を助けてくれるナッツ、ドライフルーツを絡めた”ハニーバー”と、しっかりカロリーの取れる”P&Rタルト”。しんどい時にも美味しく楽しく糖分補給することができ、このRIDEALIVEでPFMの補給食は大活躍してくれた。
そしてここから目的地である鳳来寺山パークウェイを目指して、もうひと峠あるという。しかも今登ってきた山道よりも急で長いとか。信じたくなかったが、ここまできたら登りきる他に選択肢はない。みんながいれば大丈夫、と心の中で唱えて自転車をに跨り、しっかりとペダルを踏み出した。
すると1回目の坂道で少し体が慣れたようで、自分に合う変速を見つけてバランスも取りやすくなっていたこともあり心なしかペダルが軽く感じた。ただやはり山の中といえど照りつける日射しは強く、暑さとの戦いもなかなかのものだったが、絶対に登りきる!と心に決めていたのでひたすらペダルを回し続けた。たまに木々がひらけた場所から目に入ってくる谷の景色がまた綺麗で、そしてそれが自分がどんどん高いところへきている、ということを実感させるのでモチベーションを維持することができた。
鳳来寺山パークウェイの案内板がみえる。あと少し、あと少し、、。苦しいけど前だけを見据えて、目の前に広がる青空に向かっていくような感覚でペダルを踏み続ける。見えた!ゴールであるパークウェイの入口に思わず口元が緩む。こういう瞬間になぜか体が軽く感じるのは不思議なものだ。そのまま突き進み、山の麓にみえる小さくなった町を背についに登りきった。日陰に自転車を止め、ヘルメットを外すとベルトまで汗がびっしょりで自分が感じていた以上に体はものすごい運動量をこなしていたのだと驚いた。そして順々に他のメンバーも到着し、全員無事に登頂成功。それがなにより嬉しかったし、みんなで笑い合うことに感動があった。パークウェイから見える緑の山と晴天により白く光る空が登りきった、という実感をじわじわ沸かせ、達成感と清々しさでいっぱいになった。
一度少し休憩しよう、とみんなでかき氷の旗がかかる小さなお店に入る。かき氷で火照った体を冷やすつもりのところを大好物の五平餅があるのを見て思わず注文してしまったが、頑張った後の五平餅はいつもの3倍くらい美味しい気がした。店内に貼られた「心太」を「ところてん」と読むということをここで初めて知り、少し賢くなった気分だ。
20分ほど体を休め、記念撮影をしてからこれからのルートの確認に入る。そう、まだこのSummerChallengeは終わっていない。登りが終われば次の挑戦は”くだり”である。くだりと聞いて喜んだのもつかの間で、いざ降り始めてみるとくだり坂こそ一瞬たりとも気の抜けないそう簡単なものではなかったが、それはまるでアトラクションに乗っているかのような遊びの時間でもあった。
さっき登ってきた急激な坂道をブレーキをきかせながら少しずつ降り始めるが、自分が思っていたよりもずっとスピードが出る。木々に覆われた緑のトンネルの中にぐんぐん吸い込まれていく感覚がとてもおもしろく、怖さよりも胸の高鳴りが優っていた。スピードが増すごとに着ているTシャツのパタパタとはためく音が耳元で大きくなっていくのがわかり、気持ちもどんどんあがっていく。何箇所も出くわすカーブは、落車をしないようにバランスを取りながら丁寧に、でもスピードを落としすぎないように曲がる。全身で山の中を駆け抜ける爽快感はすごく気持ちのいいものだったが、これはあの山道を登ってきたからこそ味わえるご褒美のような感覚なのだろう。
こんなふうに風をきってくだりの山道を楽しんでいると、「ザリッ」となにかが擦れるような音がフロントタイヤの方から聞こえた。みると、カーブで車体を傾けた際にフロントキャリアに取り付けてあるパニアバッグの底が道にあたって擦れた音のようだ。このパニアバッグはサークルズスタッフのジャスさんに借りたもので、反射的にまずい!と思ったがこの嫌な予感はのちに的中することとなる。
あっというまに楽しい下り坂を降りきってしまい、町に出てきた。町といっても田んぼや畑が広がるのどかな場所に変わりはないのだが、急にむんっとした嫌な暑さを感じて汗が吹き出してくる。やはり山の中は空気がキレイで気持ちがいいので、しんどい道のりだとしてもすっきりした爽やかさがあったのだと自然の力の大きさを実感した。
そのあとはお昼休憩のスポットである道の駅まで自転車を進め、やっとの思いでお昼にありつく。お蕎麦が名物というこの場所でみんなでひとまずお疲れ様のお蕎麦を美味しくいただき、最終目的地であるタリカーナの集合時刻が押していたので座敷でもっとゆっくりしたいのをこらえて早々に道の駅をあとにする。あとは浜松を目指してひたすら漕ぐのみだ。
峠を越えたあとなのでさすがに疲れを感じながらのライドであったが、途中のトンネルをくぐったあとに「浜松」の文字が記された標識を目にした時にはついに!!と胸が高鳴ったのがわかった。両脇に広がっていた畑や田んぼが少しずつ減っていき、街中に入っていったところでスーパー銭湯に立ち寄り、今日何リットルかいたのかわからない汗を流した。ここでもゆっくりすることはできなかったがこんなに頑張ったあとのお風呂はやはりたまらなく気持ちがよく、心も体もリフレッシュして最高の状態でタリカーナに向かうことができた。
銭湯とタリカーナは8キロほどで、そこまでの道のりは浜名湖沿いを走るルートだったがこの道が個人的にはとても良かった。夕陽がきらきらとやさしく反射する水面と黄金と藍色の入り混じる夕暮れ空がとても美しく、見入ってしまって目を離すことができなかった。最高の締めくくりだ。
そんな浜名湖沿いを外れると、湖畔沿いにポツポツとカラフルなテントが立っている場所が見えた。最終目的地であるタリカーナだ。そして無事に全員笑顔でゴール。
もう他のグループのみんなは到着していて、一山越えて浜松に到着した私たちに「お疲れ様ーっ!!」と声を掛け出迎えてくれた。夕陽が沈んでいく湖畔を目の前に、なんともいえない達成感を感じていた。
想いの詰まった場所と食事
タリカーナは湖畔沿いにひっそりとある隠れ家のようなキャンプ場で、オーナーのシンさんが1人でこの土地を整備し、電気や水道を引いてきてつくりあげたというから驚きだ。
シンさんは笑顔の絶えない穏やかな人で、タリカーナにもその人柄が出ているような、やさしい空気が流れている。またこの日のために浜名湖への飛び込み台という遊び道具まで作ってくれていて、みんなキャンプ場に到着次第次から次へとドボンしていったそうだ。このシンさんの遊び心もみんなの楽しかった思い出をまたひとつ増やしてくれた。
そしてそんなキャンプ場でもうひとつ待っていたのが、EARLYBIRDSの店主大平恵太さんが担当するディナーだ。キャンドルの灯った長いテーブルの上に、綺麗に盛り付けられた料理のお皿が次々に並ぶ。
今回のディナーはビュッフェスタイル。夕暮れ時だったのが少しずつ日が沈んで暗くなってきたころ、この宴の空間はそれは幻想的でロマンチックなものだった。
片手をに持ったドリンクを空に掲げ、みんなで「かんぱーいっ!」と声を合わせたらさあ、待ちに待った宴のはじまり。ディナーは全部で10種類ほどの料理が出てきたが、その種類の多さに加えて全てのお料理の盛り付けや色づかいがとても綺麗で、味わう前にまず目で楽しめてしまうことにただただ感激する。もちろん口に運んで美味しさに鼻の穴が膨らんでしまうこともいうまでもない。
疲れ果てた体に”美味しい!”が染み渡り、思わず笑顔が溢れて隣にいた人と会話が生まれる。食事ってやっぱりすごいな、改めてそう実感した瞬間だった。
日中のライド中はそれぞれグループに分かれていたので、この夜の時間に初めて今回のRIDEALIVEの参加者全員が顔を合わせていることになる。
浜松側の参加者の方々とも美味しいごはんを食べながら話が弾む。今日のライドはどうだったか、どんな繋がりで今回のRALに参加することになったのか、どんな自転車にのっているのか、明日はどこにライドする予定なのか、、、こうやって県を越えて新しい出会いがあり、繋がりができていく。それが嬉しくて、単純に楽しい。
水辺で焚火を囲んで花火をしたり、先ほどの飛び込み台でもう一度ドボンをしたり(私はここで夜の浜名湖へ初ドボンしました)、お酒を片手にゆったりと語り合ったり、、。それぞれが思い思いに水辺の夏休みの夜を過ごしていく。
こんな素敵な夜はあっというまに過ぎてしまうもので、気づけばもう日付が変わろうとしていた。そろそろ寝ようかとテントに潜り込むと、自分にとって挑戦だった今日1日が終わろうとしているのに、余韻に浸る間もないまま深い眠りについてしまった。
つづく
RIDEALIVE 2017 レポート by 恵太
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RIDEALIVE 2017 レポート by Happy
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RIDEALIVE 2017 レポート by 加茂
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