さてそろそろ本題に移る時が来たようだ。
めぐりめぐって出会うという事はなんてロマンチックで運命的なんだろう。
人をめぐりめぐった行き先にモノがあり、モノをめぐった先にはかならず人がある。
そんな常識的な事を経験からでしか得れない僕は本当の無能なのだろう。
でもだからこそ脳に響き渡った時の感動を誰かに伝えたくなってしまうのかもしれない。
そんなKingをめぐる冒険の結末は如何になるのであろうか。
自分でもまだ分からない。
僕がアメリカに住んでいた時に初めて買った “Schwinn” のマウンテンバイクに、サードパーティー品として取り入れた最初の部品は偶然にも写真にあるTurquizのChrisKingのヘッドセットだったのです。
それは当時の未熟な僕にとって、その性能、価格や評判等まったく意味は分かりませんでしたが、ただそれがとても美しいパーツであることは確かであり、是非とも所有をして、しっかりと使ってみたかった思い出があります。
時はめぐりゆき、そのときなぜ “美しい” と感じたのか1から100まで理解出来るようになった僕が今ここにいます。 そして出来るだけ多くの人たちにこの思いを伝えていくことを使命としたその日から、この世界を選び、歩む僕にとっての大冒険が始まったのです。
“Cielo” という名の現代における最高級 “マスプロダクションハンドメイドバイク” を取り扱ってきたSimWorksは、それをきっかけに、今年よりChrisKing Presicion Componentsのパーツ関連全般の取り扱いもさせて頂ける様になりました。
ChrisKing Precision Componentsは1976年に自転車用のヘッドセットを製造とするビジネスを始めました。
まだマウンテンバイクといわれるものが存在しなかった時分からヘッドセットというものはどれも極めてチープな材料と粗悪なベアリングで作られ、自転車によく乗る人々にとっては3ヶ月もすると交換しなければならない消耗品でした。
当時、サンタバーバラで機械工をしていたChrisKingは自分の工場から廃棄されるべきである医療機器用のベアリングがヘッドセットに応用出来るのではないかと思いつきました。 医療現場用ということはすなわち当時における最高の精度を実現したベアリングであり、そこに附随する素材達もまた同様に最高級のものを用いて作られているのです。 それはとてもとても限定的な生産でしたが、質の違いの分かる人々(使い続ける人たち)にとってはとても喜ばしい事であり(3ヶ月に一回のヘッドセット交換を想像して下さい。)需要は粛々と続きました。
そしてマウンテンバイクという名の新しい追い風が時代と共にやってきます。 チープで壊れやすい製品ではマウンテンバイクという遊びは、オフローダー(無法者)たちが好む使用法に耐えることはやはり無理だったのです。
それからというもの、ChrisKingの作り出す製品が適えたその強度、性能は現在のダウンヒルレースやRedBull Rampageなどを代表するクレイジーイヴェントに至るまで、求められ、使い続けられてきたのです。
そして僕は想像します。
自転車という物事を深く理解する人々は、単なる消耗品に過ぎない物から高品質でずっと使える物に取り替える事をとても堅実、確実な方法として受け入れていったのだろうと言う事を。
物は壊れます。
でもそこに行き着くまでの過程がより大事になると信じています。そしてその事実をどう向き合って製品を産み出しているのかがその会社の哲学に繋がっていることは明白です。
ChrisKingのウェブサイトにある彼らの哲学の一部を日本語訳してみました。
モノという結果のみにあらず、作り上げていく過程、始まりから終わりまで、全てに於いて込められたChrisKingのリアリティ、本質を感じる事ができます。
つたない訳ですが時間を割いて御一読いただけるとうれしいです。
私たちは絶対的に独立した存在であり、多くの流行やトレンドに左右されることは決してありません。自分たち対して熟考を重ね、反省する事が私たちの次の行動への糧となります。それは私たちの商品や行程を新しく創っていく上で多くの忍耐を必要とすることです。それに対して弛まぬ努力が我々には必要だと認識しています。
我々は、高品質のクラフトマンシップと高級材料を選択することによって支持されています。妥協のないフィット感と仕上がりの基準は、私たちの持続的なブランド力を確実にサポートしています。そして私たちは、創造的かつ洗練された解答を美しさの中に閉じ込め、皆様に提案出来る事を感謝しています。
私たちは真の善意を実践しています。私達は社会のなかで寛大でありたいと思います。それは社員から始まり、私たちの地元、地域と国家の権利擁護の約束へと繋がっています。我々は、地元および国際社会への責任をしっかり認識しています。さらに、我々は素直に我々の知識、私たちの視点、そして私たちの哲学をそれらと共有しています。
私たちの旅は、自転車に乗ることへの情熱から始まりました。そして世界に存在するサイクリストが持つ冒険心に対して、とても感心しており、彼らと一緒に同じ世界観を味わいたいと思い続けています。鍛錬し能力を高め競い合うサイクリングというスポーツの世界にあって、国際レベルでの勝利と匿名の個人的な努力の成果を等しく支持します。私たちは日々において自転車を祝福するのです。
アメリカ合衆国では5月を自転車の月としてお祝いします。ほとんどの州では季節がどんどん気持ちよくなり、疲れきってしまう通勤渋滞の車から降りて、自転車に乗りたいという衝動にかられるようになります。 近代になって、職場では働く人に特別奨励をつけるなどして通勤者プログラムを支援し始めました。 あなたが想像するように、自転車産業会がコミュニティーの支援を受けて大きく動き始め、メディアも活発になり、そしてインターインダストリ企業も5月に動き始めるのです。
いくつかの都市では他の月にも通勤支援やチャレンジを行ったりするところがあります。その中には、私たちのホームタウン、ポートランドのオレゴンも入っています。 毎年9月に、Bicycle Transportation Alliance(オレゴンにある非営利自転車組織)がBike Commute Challenge(自転車で通勤してみよう)というイベントを開催し、自転車で有名な都市はさらに自転車利用をしやすいように成熟していったのです。
ChrisKingはこの両方の取り組みに対して活発に参加しています。しかもこの取り組みに貢献している従業員をサポートするための年間において適応されるルール/基盤をつくりました。
- 全ての従業員の為の安全なインドアパーキング
- 男性と女性のためのモダンなロッカールーム及び、個人のシャワールーム
- 全ての従業員に対しての貸し出し自転車、鍵、ライトを用意
- 通勤コーディネーターから自転車教習や、家から会社までのルートを相談できる。
- 自転車通勤者がもらえるChrisKingのカフェのクレジット
- 5月と9月のイベントに参加するともらえる有給休暇
2011年にChrisKingはカフェのクレジットという形で従業員に$27,846.95を支払いました。従業員が自転車通勤をした数の合計は17,818回、その一人当たりの平均は189マイル(304km)という内訳です。また社員の約70%が自転車通勤をしているということをも意味しています。
5月と9月に行なわれるチャレンジ月間においてChrisKingの従業員は報酬として以下の有給休暇が与えられます。
- 1ヶ月100%参加した人には2日間の有給休暇
- 75%参加した人は1.5日間の有給休暇
- 50%参加した人は1日間の有給休暇
- もし2ヶ月間100%参加したら最高で4日間有給休暇をもらえることになる。(会社規定にある有給休暇は別として)
そして、私たちは2005年以来、900日以上の有給休暇をこのチャレンジによって従業員に与えています。
少し長い文章でしたが、最後まで読まれた方がChrisKingを今までより身近なものに思うようになってくれていたら幸いです。
僕たちは知らない事が多過ぎたのではないかと考えています。
単にキレイであるとか、高性能であるとか、高過ぎるとか、細か過ぎるとかほんの表面的なポイントを理解しているだけで、なぜそうなったのかをあまりにも知らなさ過ぎたのだと思います。 そこにはちゃんと理由があり、それはなぜコストが加算されるのか説明ができ、また自然環境に配慮していく事のみだけが大切なのではなく、全てが人の生活に直結した上でモノ作りはあるべきという当たり前の事を。
彼らはこの信念や社会に対する思いを持って30年以上も前より、自転車専用のベアリング製造会社として活動を続けてきているという事なのです。
上記はベアリングの製造過程です。
ステンレス製のボールは人間の操作する研磨機によって20分間、鏡面の状態になるまで磨き上げられます。
そして人の手によって専用の圧入用工具の中に設置されたリテーナーに一粒づつに填められ、やはり人の手によってプレスされ完成します。
担当者はオーダーが入るごとにストックルームから上ワン、下ワン、キャップ、シェル…と指定通りの各パーツを1つずつピックアップしてきます。
完成したらパッケージングをし、最終的に商品として出来上がります。
どの行程においても人間が常に見て・触っている状況であり、それそのものが最大のクオリティーコントロール(品質チェック)となっているのです。
機械切削によって作られる物であっても最終的な判断は全て人間によるものであり、その積み上げが最高の品質や精度をもたらしている事に違いがありません。 そこを省いてモノを創るというコンセプトはChrisKingの辞書には載っておらず、今後それが書き足される事も決してありません。
また製造について面白い話があります。
それはChrisKingで使われる多くの機械のほとんどがChrisKing本人が買ってきた70~80年代の年期の入った、でもとてもしっかりとした作りの工作機械を使用しているという事です。 もちろん中身は最新のコンピュターに制御されたものに生まれ変わっているのですが、外身は皆ある程度使い込まれた感のある機械達がほとんどなのです。
そして彼は言います “最近の工作機械はとにかく直しにくいんだ。だから自分たちで出来る限り、直しながら使っていけるものを常にあつめているんだ。それもどんどん少なくなってきているから必死だよ” と。
そしてChrisKingの工場内の工作機器を補修する部署の倉庫では、多くの今後使われていくであろう機械達が今か今かとその時を待っているのです。
また僕自身が一番感動したのがChrisKingの製品を製造する時に使われる全ての切削用の歯も自社内の工作機械製造部署で作られているということです。
とにかく作れるものは全て自社で作り、全ての行程に責任を果たし、そんな会社がさらに外に広がっている世界をイメージをしながら環境と経済を照らし合わせ毎日淡々と製造活動を続けていると言うこの確かな事実は、僕の感覚や内部のすべてに巨大な衝撃を与えてくれたのでした。
自分という名の好奇心の器をしっかりと抱えて、物事の本質に出逢ってゆくことは、最高で最愛のライフワークになるのかもしれないと僕は感じています。
そこでめぐり逢う様々な自転車たち、そして自転車人たちや、さらには強い自転力を持った人たち。 そんなひとりひとりと運命という奇妙な糸に引き寄せられて、1つの新しい基準を作り始めようと考えることができるのなら、僕は喜んでその仲間に入っていきたいと思います。
自転車という最高の道具を使う人たちの為の社会に、変化や向上の為のインパクトを少しでも与えていくことができるなんてやはりきっと最高だと思うのです。
まだまだ知らない事が多過ぎます。だからこそより強い冒険心を持って行動するのです。
それはまるで自転車に乗り出したばかりの僕たちが自分の街を飛び出して、あらゆる景色を駆け抜けてはドキドキしていたあの頃と同じように、知りたい!やってみたい!って気持ちが僕たち全ての原動力になるって、そして今再び自転車に乗り出した人たちや今まで乗ってきたけど少し見失っていた人たちもきっと漕ぎ続ければわかる事、見えてくる事がちゃんとあるってみんな知っているのだから。
次はみんなできっちりとステップを踏みながら、素敵なダンスが踊れる時が来るだろうと信じて。
ライド、ライド、ライドに続きます。(嘘)