Photo & Text & Movie by Ryota
2014年9月。
ボストンの市街地から郊外へと伸びる道を、ナビだよりのレンタカーで進む。
トランクには三脚とフル充電されたカメラが収まっており、ラスベガス、ニューヨークにつづいてその出番がこの街で来た。
豊かな緑に包まれたワインディングロードは古めかしく、ロータリー式の交差点で複雑に絡み合っており、その様はまるでヨーロッパだ。
僕らがバイクビルダーやメーカーの工房を訪ねようとハンドルを握るのは大抵西海岸の、実にアメリカンな景色のどこかだったりするので、これには得も言われぬデジャヴにも似た、唐突なロスト感覚に陥っていた。 しかし、この先には鉄粉(チタン粉?)と切削油の匂い漂う工房があり、毎日5本ものペースでチタニウム製のフレームを世界に送り出しているのだ。
セブン・サイクルズとは、どんな人達なのだろうか?
カリフォルニアあたりではロックバンドな少年も、こちらではブラスバンドでピカピカのトロンボーンを鳴らしているのではないかなどという妄想を頭の片隅に、すれ違う車、家々、景色の全てがなんだかハイソに見えてきてしまった僕だったがそれはともかく、彼らのオフィスに到着し、通されたレンガ造りで雰囲気の良い会議室での突っ込んだお話はお任せして、その驚くべき工場での作業風景を切手のようなチップにキャプチャーすべく、各工程を案内してもらいながらフォーカスリングを廻しはじめた。
ゼブンのオーダーシートは、注文書というよりはヒアリングノートに近い。
新しくバイクを造るにあたっての要求を引き出すことが最も重要だからだ。
そこから導き出されたジオメトリーと細かな仕様が入力されたいわば「カルテ」が出来上がり、ファイナルサインオフの後、工房でのスタートラインに立つ。
まずは材料の切り出しから。適切な長さにカットされたそれらは、カルテと一緒にトレーに入れられて次の工程へと進む。
ひとつの工程につき、一人のオペレーター。バトンの様にリレーしていく。
マイリング、ベンディング、細かく計測を繰り返しながら流れるようにそれぞれのパートをすり抜けて、世にも美しい溶接が施される。 非常に面白いのは、BBシェルのスレッディングが最後にCNC切削されるという点だ。 最も熱がかかり、どうしても歪みの大きくなる部位なだけに、これは理にかなっている。
丁寧な仕上げの後には、業界内でも最高水準の設備とテクニックを誇るペイントルームが待っている。
セブン・サイクルズは三十数人のスタッフでその全てが廻っている。
年間二千本に迫る出荷本数の全てがフルカスタムであり、その生産能力を支えるのは単に効率的なシステムやハイテクな工作機械の存在では無く、純粋にマンパワーだ。ライダーの要求を満たすバイク作りは、そのヒアリングにはじまり、パッキングされて工場から出て行くまで、一つ一つがベストと言っていいほどまでに成熟された工程を経る。
ほぼ全てが手作業なのは、「ハンドメイド」を謳いたい訳ではなく、それがあらゆる角度から見てベストだからだ。
成熟は、一人ひとりが手を動かし続けることで実になっていく。
その手を動かし続ける力の源となるのは気持ちであり、自転車とその世界を愛する心に他ならない。
1997年に始まった歴史を通じ、彼らの目指すものは単なるハイエンドバイクを作ることなどではなく、どこまでもライダーへの「最高の満足」をいかにプロデュースするかである。 スペックはその手段でしかない。
よく話し、そこにはちゃんとユーモアを忘れず、間違いなきよう繰り返し計測し、また、時間があれば必ず自転車にまたがっている。
常に向上を図りながら、次なる笑顔を生み出そうと努める、そんな人々の忙しい手をセブン・サイクルズの工房に見た。
To be continued next FEATURE…