[SEVEN] セブンのチタニウム技術&製造方法論 その2

チタン素材の概要
近年、自転車フレームの製造に使われる素材や製造方法は実に多様になり、選択肢も広がっています。これらの選択が、フレームの性能——強さ、しなやかさ、耐久性、そしてスポーツとしてのライディング体験に、深く関わってくるのです。
Seven Cyclesは、数ある素材の中でもチタンこそが理想的なフレーム素材であると考えています。チタンは軽く、加工性が高く、鉄の約2倍の強度を持ち、耐久性にも優れています。これらの特性は、ビルダーにとって魅力であるだけでなく、ライダーにも贅沢な走行フィールと、ドライブトレイン効率の向上、ねじれに対する優れた剛性を提供します。
ただしチタンは、扱うために高度な技術と専門知識が求められるデリケートな高性能素材でもあります。そしてもうひとつの側面として、決して希少ではないが、高価であるという特性も理解しておく必要があります。
チタン合金ができるまで
「チタン=希少な金属」と思われがちですが、実は地球上で4番目に多く存在する金属元素です。地殻中の存在量で見ると、アルミニウム、鉄、マグネシウムに次ぐ豊富な金属資源です。
しかしながら、自然界ではチタンは単体では存在せず、「ルチル」や「イルメナイト」といった鉱石に混ざった状態で採掘されます。この抽出と精製の工程が非常に困難かつコスト高なため、チタンは高価な素材とされているのです。
チタンスポンジの製造
チタン精製の最初のステップは「チタンスポンジ(sponge titanium)」の製造です。これは、まるで海綿のような見た目からその名が付けられた、不純物の少ない純チタンの塊です。
- **酸化チタン(TiO₂)**は、まずコークスと混合され、塩素化処理により「四塩化チタン(TiCl₄)」という液体に変化します。
- この液体を蒸留・精製した後、粉末状のマグネシウムと反応させ、酸素や水素を取り除いた状態で加熱します。
- 反応によって塩化マグネシウムが分離され、純チタン(チタンスポンジ)が残るという仕組みです。
コンパクトからインゴットへ
チタンスポンジは次に、油圧プレスで圧縮され「コンパクト」と呼ばれる塊状に加工されます。これを溶接して巨大な「消耗電極」とし、真空アーク炉で再溶解されます。溶融チタンが炉内で固まり、**「インゴット(チタンの鋳塊)」**となります。
ちなみに、炉内の内壁には銅が使われており、固化したチタンと一部結合してしまうため、大型の旋盤で銅を削り取る作業も必要です。
合金化:3AL-2.5V の誕生
この時点で、チタンは必要に応じてアルミニウム(3%)とバナジウム(2.5%)を加えて合金化されます。これが、自転車用チタン素材として最も広く使用されている「3AL-2.5V」合金です。
チタンがチューブになるまで
巨大なチタンインゴットは、**酸素のない環境で鍛造(ハンマーで打ち延ばす作業)**されます。この工程により、金属内部の構造が均一化され、強度と柔軟性が適度に調整されます。
鍛造された素材は直径約8インチ(約20cm)の棒材となり、それをさらに**押出成形機(エクストルーダー)**で押し出して、管状のチタンチューブに加工していきます。
押出成形後のチューブは、塩酸に浸して表面の酸化物や不純物を除去され、さらに細いサイズへと加工されていきます。
仕上げ加工と検査
押し出されたままではチューブはまだ使い物にならず、ここからさらにチュービングミルという加工設備で精密な仕上げを施します。
- チューブは長さ・直径・厚みを測定され、外観と寸法の検査が行われます。
- 同時に、化学成分の分析や**真直性(まっすぐさ)**のチェックも行われます。
- 不純物除去や酸化防止のための酸処理が再度行われます。
この後、いよいよ**「真空焼きなまし(vacuum annealing)」**という熱処理に入ります。
真空焼きなましが重要な理由
- 加工中に蓄積された応力を除去し、チューブをしなやかにする
- 圧延加工の前に適切な柔らかさを与えることで、加工中の破損を防ぐ
この工程によって、チタンチューブは機械加工性・曲げ加工性・溶接性が飛躍的に向上します。
*1: 圧延機を使用するためにチタンチューブの強度をいったん小さくさせます。チタンチューブが圧延機に通された時、チューブの強度は急激に増加するためチタンはより硬くなり、より強くなります。もし真空焼きなまし作業がなければ機械は大きなダメージを負ってしまうのです。
*2: チューブの可鍛性を上げることで、圧延機を通す事ができるようになります。これにより強度を無くさず柔軟性を劇的に増加させる事が可能になる。チューブに柔軟性が無ければ、とても不安定で使い物にならなくなり、機械加工や折り曲げる事がしずらくなる可能性も出てきます。
(焼きなまし作業中に柔軟性と強度を増加させる事でチタンチューブが曲がってしまう場合があるので、チューブは全ての工程作業に入る前にしっかりと真っすぐにさせられてから作業に入ります。)
ピルガーミル加工
次は「ピルガーミル(Pilger Mill)」と呼ばれる工程で、チューブの直径や厚みをさらに細かく調整します。
- 何度も繰り返し通すことで、**結晶粒構造(グレインストラクチャー)**が理想的な形に整えられていきます。
- 超音波検査や酸洗処理を繰り返しながら、目に見えない微細なキズや欠陥も取り除かれます。

CSR(収縮歪み比)と耐久性
チタンチューブの性能を評価する指標の一つに、CSR(Contraction Strain Ratio / 収縮歪み比)があります。これは以下のような性質を示します:
- CSR値 1.7〜1.9:最も高い疲労強度と柔軟性のバランス
結晶粒構造は、チューブ表面の薄さに対し、どのくらい直径が小さくなるかという割合によって決まってきます。この粒子とそのテクスチャがどうなっているかは、チューブのCSR(収縮歪み比)を計測する事で検査することが可能で、下記の表からも分かるように、1.7から1.9までのCSR値は一番高い値での疲労強度を助長し、一方で最高水準の曲げ変形特性を維持することが可能となっています。 - CSR値 2.0以上:曲げには強いが、疲労に弱くなる傾向
2.0以上のCSR値は、曲げ変形特性に関しては維持ができていますが、疲労耐久性に関しては劇的に減少します。最適のCSR値はこうしてピルガーミル加工の工程に於いてコントロールされるのですが、この工程の後にチタンチューブを冷間加工(例:テーパリング、インターナルバテッド等)を施すと、これがチューブの耐久性に悪影響を与えてしまう可能性がある事も忘れてはいけません。
ピルガーミルによって理想的なCSRを得たチューブに、後から**冷間加工(バテッド加工やテーパリングなど)**を加えると、結晶構造が崩れてCSR値が下がることがあるため、慎重な設計が必要です。
ピルガーミル加工による冷間ストレスリリース工程を経て良好な結晶粒構造が仕上げられた後に、通常の冷間加工を施してしまうと、せっかくの良好な結晶粒構造が悪化してしまう場合があります。例えばチューブを伸ばしたりテーパリングさせたりする事で、結晶粒構造はラジアル配向から分子が外に出てしまい、CSR値は下がってしまうのです。しかしながらこのような結果的にCRS値を縮小させ、チューブの耐久限度を下げてしまうような加工がメインチューブ、チェーンステイなどを細くさせたりする為に使われていることもあります。

最終仕上げとSevenオリジナルのこだわり
最終的に、チューブには以下の仕上げが施されます:
- 再度の酸処理と超音波検査
- 最終焼きなまし:柔軟性をわずかに高めてエンドユーザーに最適なバランスを与える
- アルファケース(表面酸化層)の除去処理:特にチューブの内外面を丁寧に酸で洗浄します
※ アルファケースとは、チタンの高温加工中に表面にできる酸素に富んだ硬化層で、脆く加工性が悪いため除去が必要です。
この最終工程は、一般的なスポーツグレードのチタンチューブでは行われない場合もありますが、Sevenではこの処理を重視し、オリジナルチューブの完成度をさらに高めています。
最終検査と出荷
出荷前には以下のような厳格な検査が実施されます。
- うず電流テスト(電磁誘導による内部欠陥検出)
- 超音波テスト(目視では確認できない内部構造の検査)
こうして完成したSevenオリジナルチタンチューブは、フレーム製作のためにSevenの工房へと届けられます。