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【MONDAYS】Funahashi’s SEVEN CYCLES Mudhoney SL

久しぶりのMONDAYS。 張り切ってバイク紹介といきたい所ですが、今日は少し趣向を変えて。 自身にとって2台目となる SEVEN CYCLES / セブンサイクルズ として、ダートライドやシクロクロスレースを楽しむことを主眼とした Mudhoney SL を手に入れた 船橋氏。そんな彼にボールを投げてみました。

なぜ2台目もセブンとなったのか。 彼をそうさせたのには、セブンが誇る独自のフィッティングメソッドがあったからのこと。 そして、その根底にはここで彼が言及している、自分自身への問いがあったから。

是非、ご一読ください。


あなたは自転車から何を受け取っていますか?

Text By Yuta Funahashi

最近何か心に残る体験はありましたか?

そう問われたら、どう答えるだろう。 「いやぁ、最近はほとんどないですが 幼稚園のときだったか、何故か上を向いて歩いていて、そしたら側溝に落ちて大量に出血してしまいまして… 母がタクシーで病院まで連れてってくれたんですけど、溝に落ちた瞬間の空の色とか雲の形は何故だか今でもありありと思い出せるんです。」

そう答えるかもしれない。

もちろん、 あなたはきょとんとするだろうけど。 どうやら私は、「問い」がないと文章が書けない、あるいは物を考えられないらしい。 なのでこうやってしばしば訳の分からない問いを自分に投げかける。 空に向かって投げたボールを太陽に妨害されながら必死に受け止めようとするみたいに。

でも本当にこの場で自分に問わなければいけないのは、そんなことではなかった。 自転車からあなたは何を受け取っているか? そう問われたら、 なんと答えるだろう。

私もこれを読んでいる方と同様に、自転車という存在に大きな意味を見出してる人間だからこそ、このシンプルな問いに答えるのは難しい。 でも、私なりに考えてみたい。

例えば、仕事から家に戻り、玄関に置かれた自転車のチェーンステイを眺めて立ち竦むとき。 もうあとちょっとだからと険しい峠の終点を騙され続けてやっとたどり着いた眺望に触れたとき。 寒い日のライド、 立ち寄ったうどん屋で出された器に上る湯気が目にしみるとき。 ハードライドの帰路、風に包まれつつ、仲間と共に夕暮れに染められるとき。

その瞬間、私たちの中にはある固有の感覚が立ち上がっている。 それらは独自の色と、香りと、音と、光の量を持っている。 私が自転車から得ているのは、そういう形のないもの、意味のないものたちの声を掴み取る力なんだと思う。 自転車は、身体を運ぶ移動装置であると同時に知覚の補助装置なのだと思う。 最高のファンツールである所以はそこにある。そう考える。

移動装置、あるいは知覚の補助をするからこそ、私たち一人一人に自転車は様々な意味で最適化されておく必要がある。 それは、サイズや柔軟性、軽さに留まらず、単純に心惹かれるかどうか、 あなたのこれからの時間に寄り添えるかどうか、という意味でもあなたの身体と心にフィットしているべきである。私はそう思う。 私が自分の自転車を選んだ理由もそこにある。

言ってしまえば、必ずしも軽くて速く走れるバイクである必要もないし、ましてや自動車が買えそうな金額のバイクを皆が買う必要などカケラもない。道具はその主人との関係性によって、意味が割付られるべきだと思うからだ。 とはいえ、自らの身体とバイクでどんな場所で何を感じ取りたいか、それらをビルダー伝え、然るべき時間と端整な仕事を経て、正確に体現されたオーダーメイドの自転車が、あなたの手足の延長となり、皮膚の感覚を鋭敏にし、普段聞き取れないものの声を掴み取る為に力を貸してくれることは間違いないと思う。

私自身、スポーツサイクルに乗り始めてすぐに、セブンサイクルズにたどり着いたわけではない。 会社に入って初めてもらったボーナスで手に入れたアルミのアンカー。 レースに出るようになってから手に入れた羽のように軽いキャノンデール。 それぞれに同じように惹かれ、様々な人と場所に出会った。 そういった時間と経験を経て、 今この自転車に乗っている。

朝のライドを終え、 無気力な時間を部屋で過ごしたのち、少し風の温度が和らいだ夕方、 食料を買いにフロントバッグをつけた自転車でスーパーに向かう。 サンダルでペダルを漕ぐのはやや難儀だが、母指球のあたりで踏めば効率よく進んでくれる。 むしろ、若干の効率の悪さが周りに広がる光景の変化に目を向けさせてくれる。 スーパーで納豆を買う。 暑ければあずきバーも買うかもしれない。

帰り際、先日の台風を乗り越えた水田の稲穂はまだ優雅に揺れながら、 夕日で金色に染まり始めた。 その瞬間、世界が自分だけのものになっている。 これがいい。 また少し目を瞑る。 風と稲穂の香りをもう一度吸い込む。 遠くから電車の音が聞こえた気がした。 僕の自転車は今日も僕の身体とあらゆる感覚をここではない場所に運んでくれた。

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Ikeyama Toyoshige
池山 豊繁

Circles / SimWorks / CWD 学生の頃のメッセンジャー・サークルズでのアルバイトを経て、今に至る。 サークルズスタッフ最年少を公言していたが、今ではニュージェネレーションも加わり古参の存在。 でも身長は最小です(#163cmですがなにか)。 CXレース経験もありますが、今はのんびり瀬戸のグラベルを走ったりするのが専らで、過去の面影はどこへやら。自転車で釣り場にアプローチするBikeToFishingのスタイル研究にも余念がない。
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