ピーターボロの悲劇

およそ自転車屋には似つかわしくない木製のバスケット(カゴ)が並んでいるサークルズの店内。160年以上の歴史があるアメリカのピーターボロ社の製品であり、自転車用とその他一部のバスケットを店舗と輸入代理店部門CWDで扱っている。

アメリカ最古のバスケットメーカー「PETERBORO BASKET COMPANY(ピーターボロバスケットカンパニー)」は、アメリカ建国から100年ほどを経た1854年の創業。ヨーロッパからの移民が爆発的に増えていた頃であり、生活の道具として地元の木材を使って職人達が編み始めたアメリカ的民芸プロダクトである。

正直それほど売上が多い商品でもないし、かさばるから保管も大変である。でもサークルズには無くてはならないプロダクトであり、子供車や婦人車をはじめ、これがぴったり似合うバイクのなんとかっこいい事か。

160年の歴史がある老舗がクローズ?

サークルズの在庫も減ってきて、追加の発注をしようとピーターボロ社に連絡したところ、「もうオーダーは受けられない。会社をクローズするんだ」という衝撃の回答が返ってきた。

柳宗悦が嘆いたように、民芸的な製品は”商業主義の犠牲”となった工業製品に取って代わられる。ついにピーターボロの素朴なバスケットも安価な大量生産品に太刀打ちできなくなったのか…と思ったら、どうもそうではないらしい。

原材料の枯渇

ピーターボロのバスケットは、トネリコの一種、アパラチアンホワイトアッシュという木を原材料としている。北米に多く分布する広葉樹で、その耐久性と耐衝撃性の高さから、野球のバットやスキーの板、家具などに広く用いられているアメリカの普遍的な樹種である。

どうやらそのホワイトアッシュの原材料が以前のように手に入らなくなったというのが、ピーターボロ廃業の一因だというのだ。しかも、それは害虫による被害が広まった結果だという。

アメリカの森で起きているその問題は、エメラルド アッシュ ボーラーというタマムシに似た外来の昆虫によるものらしい。20年前にアメリカ大陸に侵入し、すでに数千万本のホワイトアッシュの樹木を枯らしたそうな。

その影響はピーターボロのバスケットだけではなく、例えばギターのフェンダー社もホワイトアッシュを素材としたギターは生産中止となってしまっているようだ。

絶妙なバランスで成り立っている地球環境

地球温暖化やグローバル化の影響で様々な問題が出てきているのは知識としては知っている。何となくその実感がわかなくても、新型コロナやこの外来生物も問題の根源が同じだと考えると、実際に影響のある差し迫った問題であるし、多くの企業やブランドがサステナビリティを謳う事もポーズでは無くなってきているように思う。

エメラルドアッシュボーラー問題は様々な対策が始まっているそうだが、160年以上続いたピーターボロ社は今年いっぱいで本当に閉じてしまう。サークルズの店内から木製プロダクトが消えてしまうのは寂しいけど、在庫限りなので買い足すなら今のうち。

個人的には家のタオル入れとサイクルクロークの投げ銭入れとして使っているけど、自転車用のバスケットも買っとこうかな。将来ピクニックバイクを組みたくなった時のために…

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monjya
武井良祐

もんじゃです。CirclesやSimWorksのWEBまわりを担当しています。その他にバイクロアを開催したり、駐輪サービスCYCLE CLOAKなど色々やっています。祭りや建築、温泉、山、イベントなど面白い目的地を目指してライドに行くのが好きです。
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