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靴紐を結ぶのかダイヤルを回すのか – QUOC GRAN TOURER

前から気になってた渋い喫茶店でコーヒーを飲みながら、以前にQUOCのイベントとして喫茶店にライドしてタグをつけて投稿するQUOC Bike to Cafeキャンペーンを開催した事を思い出した。

当時のQUOCはまだ革靴のビンディングシューズがメイン。ライドにも普段にも使える上品な革靴で、他に似たものがほとんど無く、数少ない競合があったとしても、フォーマルなシューズデザインを理解しているセントマーティン出身のQUOCと、スポーツシューズをただレザーで作ったものでは、佇まいに雲泥の差があった。現在も一張羅のためのシューズとして家にストックしてある。

それらの名作は僅かな在庫を残して廃盤になってしまった。QUOCは小さなシューズ専業メーカーだし、自転車用シューズというニッチな分野に特化しているので、在庫量や流通面で規定されてしまうプロダクトの継続性と、もっとたくさんのシューズを生み出したいというクリエイティビティの間で揺れる葛藤を見てきた。

現在はよりライドに適したラインナップになり、フォーマルからカジュアルに進化したけど、相変わらずその洗練されたデザインは健在だ。


初めて紐ぐつを履いた時の記憶は無いけれど、子供のころマジックテープの靴を履いてる時は、紐ぐつは大人のシューズのイメージがあった。紐が折り重なるアッパーと、器用さが要求される蝶々結び。それらの複雑さに大人への憧れを感じていたのだろう。

QUOCのグラベルシューズであるグランツアラーも、ロードシューズであるNIGHTとMonoも、それぞれ紐とダイヤル式がある。先に書いたように、子供の頃の刷り込みは強いもので、ファッションとしてシューズを選ぶならやっぱり紐推しである。ダイヤル式はどうしても子供っぽく感じてしまう。

そんな偏見を抱えつつも、紐のグランツアラーとダイヤルのグランツアラー2を両方使っていると、恐ろしい事実に気づいてしまう事になった。ダイヤルの方をよく履いている…

ドタバタと家を出る時にパッと履く靴はどうしても着脱しやすいシューズになってしまう。そうなると断然ダイヤルに分がある。人間は楽な方へ流されてしまうのだ。そしてそれこそがダイヤル式の一番のメリットでもある。本当に楽に着脱出来てしまう。

QUOCのシューズが紐で本革だった頃、デイジーメッセンジャーのイズル君指導の元、革靴メンテナンス講習をよく開催していた。その時に印象的だったのが、シューズを長持ちさせる秘訣として、玄関で時間をかけて靴の着脱を行うのが重要、という話だった。

紐をしっかり緩める事、靴べらを使う事、無理に足を出し入れしない事、そのための椅子を用意できればなお良し。普段どれだけ自分が靴をぞんざいに扱い、それが靴の寿命を縮めているという事実をあらためて突きつけられた。

そうは言ってもズボラな自分にとって、毎日玄関で靴をしっかり履く習慣をつけるのは大変だ。だからこそダイヤルシューズの出番が増える。

でも、必ずしっかり靴紐を結ぶ時がある。それは…レースやロングライドの時。みんなそうだと思う。

重要な場面で靴紐をしっかり結ぶのは、単なる足の固定だけではなく、気持ちの引き締めである事が多い。元々”結ぶ”というのは日本のアニミズムや神道の産霊(むすひ)からきている言葉で、私たちはその万物を産み出し発展させるその霊力の重要性をミームとして信じている。願掛けやげん担ぎに”結ぶ”事が多いのはそのためだし、科学的な根拠は分からずとも、紐をギュッと結び上げる時の感覚はやっぱり気持ちの良いものなのである。

紐のシューズが好き、ダイヤルのシューズは楽。機能と気持ちの両方をバランスしながら選んで使い分けたい。

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武井良祐

もんじゃです。CirclesやSimWorksのWEBまわりを担当しています。その他にバイクロアを開催したり、駐輪サービスCYCLE CLOAKなど色々やっています。祭りや建築、温泉、山、イベントなど面白い目的地を目指してライドに行くのが好きです。
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