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ウールはなぜ縮む?その原理とケアの方法

秋から春先にかけてなにかと重宝するウール製品。ハイキングや、サイクリングを楽しんでいる方なら、メリノウールのインナーやミッドレイヤーの恩恵を体感している方々は多いのではないでしょうか。

サークルズでもウール素材の取り扱いは多く、この時期のライドには欠かせないアイテムとしてご紹介させていただいています。

でもウールと聞くと「手入れがめんどくさそう」「洗い方がよくわからない」という方も結構いらっしゃるので、ウール繊維の特徴と縮みの原理、そして簡単なお手入れ方法を説明していこうと思います。これが分かれば、ウール製品との付き合い方がわかるはず!

特に今シーズンは RAL から念願のメリノウールT をリリースしたので、気になる方!ぜひこの記事を参考にしてください!

人間との付き合いが長い素材

「ウール」という素材は古来から漁師などのワークウェアに使われ、昔からアウトドアシーンにおいて使われてきた素材です。

その後、より保温性や速乾性に優れたポリエステル製フリースの発明(patanonia がマーケットを作りましたね)からウール素材は代替され、時代遅れのクラシックな素材とされていましたが、2000年代前半頃から普及していったメリノウール素材で、再評価されることになります。

現在は復権しましたが、昔ポリエステル素材に代替されていったウール素材。この2つの素材は何が違うのでしょうか?

ポリエステルの特徴

ポリエステル素材は化学繊維と呼ばれる繊維で、石油由来の原料で作られています。精製が容易で単価も比較的安かったことから第二次世界大戦後に普及していきました。ポリエステルは繊維自体が水分を吸収しないため、毛細管現象が起こり素早く衣類から汗などの水分を放出することができるので、速乾性なら圧倒的にポリエステル素材が優れています。

作られる工程で繊維の形状を人工的に変えることができるので、さまざまな機能を付加することができます。また、耐洗濯性も強いので、気にせず洗濯機に放り込んで洗うことができます。

これがポリエステルの優れた点。しかし、化学繊維は繊維が細く、静電気が発生しやすいため、皮脂が取れにくく、汚れが落ちにくい、においを吸収してしまうことが難点。防臭加工を施されたものもありますが、付加された機能は永久ではなく、使用とともに劣化していきます。

メリノウールの特徴

メリノウールを含むウール素材は動物性繊維です。動物性繊維というのは、つまり私たちの髪の毛や体毛と同じタンパク質で構成されている素材。

その特徴はコットンや麻などの植物性繊維と比較して衣類内の温度調節機能、保温性や速乾性に優れているという点。また肌と同じタンパク質なので、化学繊維と比較すると吸湿性に優れ、肌馴染みが良く、天然の消臭効果を発揮しますので、長時間着ていても不快になりづらいのが特徴です。

シェルを着れば保温着に、一枚で着れば通気性の良いベースレイヤーになるなど、環境変化への対応力、長時間着用の不快感の軽減。こういった性能がさまざまなアクティビティで使用されるのも納得できます。

また、昨今ではこの二つの素材を組み合わせることによってお互いの素材の良さを引き出し合うような素材が開発されていたり、まだまだ素材開発の世界では色々なものが生まれてきそうな気配があります。

なぜウールは縮むのか?

いいところばかりのように聞こえるウール素材ですが、ウール素材のちょっとだけ難しいのがケアの部分。ウール特有の形態変化。私たちがパーマをかけたり、アイロンを髪の毛に当てるとヘアスタイルが変化するように、ウール素材もケアの環境で形態が変化しやすい素材なのです。

ウールの繊維は拡大してみると、人間の髪の毛のようにキューティクル状の繊維構造になっていて、キューティクルがあることにより様々な機能を発揮するのですが、繊維の毛羽(ケバ)同士が絡み合って縮みが起こったり、それがダマになって擦り切れていくことによって、毛玉の原因になるんです。

特に水に濡れている状態から乾いていくタイミングで形態が変化するので、繊維どうしが絡みやすくなり、縮みが起こりやすくなります。(入浴後、髪の毛をドライヤーで乾かさないと寝癖がひどくなるのと同じ原理ですね)そして、高熱を加えてもウール素材は変化します。それはちょうど髪の毛にアイロンこてを当ててウェーブやくせを作るのに似ているかもしれません。熱を加えることも縮みの原因になります。

また、通常の家庭用洗濯洗剤も縮みの要因になり得ます。

なぜかというと、人間の肌もそうですが、多くの動物の肌や体毛は弱酸性です。そして、通常の家庭用洗濯洗剤のその多くは弱アルカリ性。

ウールや動物性繊維を弱アルカリ性の洗剤で洗う行為は、人間に例えるならば、石鹸で髪の毛を洗うようなもの。石鹸で洗髪すると仕上がりがキシキシして指通りに引っかかりが出ますよね。

これは小学校で理科の授業で学習したpH(ペーハー)の関係で発生することです。通常時には閉じているキューティクルがpHがアルカリ性方向へ変化することで開いてしまい、キシキシして指がひっかかりやすくなってしまうのです。ウール繊維はこの開いたキューティクル同士が絡み合ってこんがらがってギュッとまとまってしまうことで縮みが促進されてしまいます(逆にこの現象を利用してギュッと目が詰まったフエルト生地などは作られます。OTOPUKE KNIT の帽子なんかは、編み物をこの原理で縮ませて作られていますね。)

ちなみに、石鹸で洗った髪は、クエン酸や希釈した酢でリンスすると元に戻ります。これもpHが調整されたってことですね!

ウール製品を末長く着ていただくには

上記のことをまとめると

1:弱酸性→弱アルカリ性へのpHの変化
2:洗濯〜乾燥のプロセス
3:特に高温での乾燥

この3点がウールを縮ませてしまう大きな原因です。

つまり、普通の家庭用洗剤で洗濯して乾燥機で乾かしてしまうと。。。大変なことになってしまいます(経験者は語る)ということで、原理はしっかりインプットされたと思いますので、簡単な洗濯の方法をお伝えしていきます。

ウールは中性洗剤で!

ウールおよび動物性繊維を洗濯する時は中性洗剤で洗いましょう。これは前述したpHを変化させないためです。この処理が長く着るための秘訣です。中性洗剤は色々ありますが、全国の薬局で取り扱われているエマールが入手性が良いです。

あと、ジップがついているものは閉じましょう。洗濯浴槽内でジップが暴れて一緒にいれている洗濯物の生地表面も痛めやすいです。そしてネットに入れるのがベストで優等生な行いです。

柔軟剤は使わない!

柔軟剤は、素材の表面に残留してしまうので、素材本来の機能が十分に発揮しなくなる可能性があります。(なぜ柔軟剤の香りが長続きするのか?それはこれが理由です)

洗剤成分のみの洗剤で洗う!

さっき見てもらった成分表示をもう一度

ここに入っている、漂白剤、柔軟剤、蛍光増白剤などは全て素材の機能性を阻害します。先述した柔軟剤は洗濯洗剤に含まれている場合があるのでご注意を。

これはエマールの表記。このように「中性」で「他の成分」が入っていない洗剤を使用しましょう。

軽く伸ばして!

少なくとも水中で繊維同士が絡まっている状態なので、形を整えるように伸ばしましょう(個人的にはこのタイミングでは結構伸ばしても大丈夫な感覚があります。縮ませたくない方向に伸ばしてください!

平干し or 物干し竿に直接!

乾燥のプロセスで縮みは一番出やすいです。またロングスリーブはハンガー干しだと、ハンガーの形状によっては肩にクセがついてしまうので、推奨するのは日陰で平干しです。

しかし、この方法はスペースをかなり使ってしまうので、物干し竿に直接引っ掛けて干すのが現実的です。ノースリーブなどはハンガー干しでもいいでしょう。(クセがついてしまうのが許容できるのであれば、ハンガー干しがスペース効率が良いのは明らかです。個人的には許容しちゃうのでハンガーで干してしまいます)

サイズが大きくて縮ませたいって思っているもの以外は乾燥機の使用はやめた方が、精神衛生上賢明です。

以上の洗濯方法を正しく行っていただければ、ウール素材はいつだってベストな機能を発揮してくれる良き伴侶となってくれるでしょう。ぜひメリノウール製品と上手にお付き合いいただければ嬉しいです。

もっと詳しく知りたい方は各画像の「引用元」リンクか下記リンクをご覧いただくとウールについてもっと詳しく知ることができると思いますよ。

東京都クリーニング生活衛生同業組合「あたたかな繊維 羊毛(ウール)について

繊研Plus「知っておきたいウールの基礎知識

洋服屋の一生モノブログ「フィッシャーマンの伝統服

ウールと上手に付き合って、アクティビティを楽しみましょう〜!

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木村 まさし

Circles /SimWorks /CWD /文化中毒者 イカれちまった人生をやり直しに名古屋へきました。Circlesを他の誰にも似ていないものにするのがお仕事です。自転車はもちろん、服や写真、読書や映画、音楽など、歴史や文化と知性があるものが好きです。
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