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今思うこと – After Re-union –

わたしたちはまた再びこの地へ戻ってくることが出来た。

SimWorks USA を立ち上げて6年という月日が経とうとしています。ノリと勢いで日本を飛び出し、時間を惜しまずに動き回っていたわたしたちのバイブスは、次第にこの大陸へ感染し始めたは良かったのだが、その最中に全くといって必要のない別の感染症がまたたく間に広がり、わたしたちの目先をぼんやりとしたものにしてしまったのは確かなことです。

しかしながら、それは結果、自転力をもった人々の勇気、我慢、努力はわたしたちを結束させ、さらに強固な思いとして一つの舞台を与えてくれたのかもしれません。

MADE HANDMADE BICYCLE SHOW

以前は自転車エンスージアストの祭典(私のブログを遡っていただくと色々と書き記しているのですが) NAHBS ( North America Handmade bycicle Show ) という自転車ショーがありました。ここ数年のパンデミックの影響もあって中止が重なり、それに置き換わるようにアメリカ有数の自転車シティーとして名高い、オレゴン州 ポートランドにて初開催された自転車ギークたちのお祭りがこの MADE Bicycle Show。

主催者は地元のプロモーションカンパニーになるのですが、ディレクターとして元メッセンジャーであり、数々のスモールブランドを時にはビッグブランドが驚愕するようなプロモーションで引き上げてきた ビリーことsouphorse。 その周りを固めるのも元クリスキングのマーケティング、プロモーションを担当していたディランやカイルなどの面々、ついては John Prolly こと John Watson や Josh Weinberg を要する The Radavist 、そして bikepacking.com Path Less Pedaled など大小様々なメディアのためのオープンデイが用意され、正しく現状を理解する人たちが周到に準備した、小さいながらもとても力強い現場になっていました。

もちろん出展者たちも、自転車に乗るという行為からそれぞれの哲学を形成した自転車人たちが集まり、それぞれが持つ思いと最大限のスキルを時にわかりやすく、時に不可解的に表現してくれる、わたしにとっては最高の自転車イベントが復活したと言っても過言ではありません。

今回はそのショーの模様を主観を交えてお伝えしたいと思います。

SimWorks

SimWorks としては久しぶりのビックショーでの展示は、移動中の機内からすでに緊張していました。

現地に到着してもまだ大切な荷物が届いていなかったり、設営するブース設備も予定の時間が過ぎても届かなかったりと。でも現場に入り準備を一つずつこなしていく過程で、これは素晴らしい展示になると確信しました。

そして思った通りの結果になってくれたことを心より嬉しく思っています。ショーの中心は新作を含めた3台のDoppoバイクですが、そこを取り巻くユニークな SimWorks プロダクツ、この機会にコラボレートしてくれた Paul Comp や Randi Jo Fab は多くの人に注目されて、ブースは常に盛況でした。ご来場の皆様は本当にありがとうございました。そして、Good Job! Team SW USA!!!

Breadwinner

地元開催でその意気込みをブースからビンビン感じることが出来たのはこの Breadwinner でした。

会場の最前列に構えたブースにはラインナップモデルがスペシャルペイントで彩られ、これこそカスタムハンドメイドバイクメーカーであることを丁寧に表現していました。

以前は多くの他のビルダーがそうであったように、トニーとアイラがふたりの工房をシェアして始まった Breadwinner ですが、現在ではちゃんとした工房を構え(Sugar Wheel Worksも現在はそこに居を構えています。)中規模サイズのメーカーとなりました。ショーのあとにその工房にも寄りましたが、整頓されオーガナイズされた工場内での生産能力は圧倒的であり、安定供給とともにペイントを含めたクオリティーは多くの人を魅了してやまないポートランド随一のフレーム工房と呼べるでしょう。

Retrotec Bicycle

その豊かなフレーム形状と構成力から、もはや多くを説明する必要がない Retrotec だと思いますが、このブランドの魅力は、いつもひとを笑わせてくれ、現場を和やかにしてくれるのはビルダーであるカーティスがもつ根っからの生真面目さとやさしさが生み出すものなのかもしれません。今回の MADE ショーでは、Simple のオスカーに享受され、製造を始めたチタニウムバイクを中心にグラベル、ツーリングと言った幅広い車種を展示していました。

それぞれのフレームから伺えるのはその丁寧なその仕事ぶり、そして納期のコミットまでを含めてもその信頼感は半端ないのです。わたしからサークルズ向けに一つのユニークなプロジェクトを彼に投げかけておきましたので、完成が今からすでに待ち遠しいです。

Sycip Bikes

ジェレミー・シシップは私のアメリカのもう一人のお兄さん、兄貴はいっぱいいますが、ジェレミーはお兄さんです。先程挙げたSimpleのオスカーがオレゴン随一ならば、こちらはカリフォルニア随一の溶接技術を持つのがジェレミー・シシップです。

近年のフレームの生産は徐々にスチールからチタニウムへと移行させながらも、誰からのどんな要望も丁寧に聞いてくれますので、今でもどんな素材でも受け付けてくれ、要望を正しくフレームへと落とし込んでいってくれる、正しきウェルディング・ウィザード。

彼が製造するフレームは常にシンプルかつ正確に製造されているので、自分が受けるカスタム製造以外にも他のメーカーのOEM(それは実際に自分では製造を行わないメーカーもあるということを意味します)としての活躍も後をたたないのです。

Chris King

SimWorks USA が間借りするオフィスはクリスキングカンパニー工場内に実はあるのです。

彼らのホスピタリティーとサポートのおかげで今の SimWorks があると言っても過言ではなく、彼らが信じる自転車への愛と創造を続ける世界観、哲学はサークルズの哲学さえにも多大な影響を与えてくれています。

現在、彼らの製造するパーツですが、圧倒的な数字を誇っていたヘッドパーツから時代背景を反映してか、徐々にボトムブラケット、ハブ、リム、そしてホイールといったものに移り変わってきていることが、その展示内容に色濃く反映されていました。

前回の木村のホイールレビューブログを読んでいただければその素晴らしさがより詳しく理解できると思いますが、わたしにとっての自転車ベアリングパーツ群といえば、20年以上も常にクリスキングとともにあり、見た目とスペックだけでなく、正しくその歴史、製造工程、哲学を理解すればするほど This is it! って話になってしまいます。よろしければ過去のブログを漁っていただけると幸いです。

Sklar Bicycle

Sklarのアダムとの最初の出会いは彼がまだ20代前半でした。

大人になり絶対的に成熟するという力強い意志の見えた素晴らしくクールな彼の舞台は多くの仲間とともにわたしたちを暖かく迎えいれてくれました。プロトタイプのハードテールバイク、Tall Tail と Super Something、彼の目線の先にはかの御大リッチー先生が見えているのかもしれませんが、本当に多くの大切なことを、この短い年月で理解し、実行に移している数少ない素晴らしいビルダーのひとりだと思っています。余談ですが、彼はこの秋よりベイエリアに引っ越してくるみたいなので、今まで以上に一緒に遊べる機会が増えると思うとワクワクしますね。まずは Meet Your Makerかな?  

Tomii Cycle

何の前触れもなく、トミイさんから今年の初め頃に SimWorks に連絡があり、帰省の際にわざわざ名古屋まで足を運んでくれたのがすごく昔のように思えてしまうのは、彼の優しげな人柄が、わたしたちにとっての古くからの友人のように思えてしまうからなのかもしれません。

その後はメールでの会話を重ね、久しぶりの再会はこの MADE となったわけですが、彼の作った自転車はクリスキングブースのメインバイクの一台としても飾られていたのが印象的でした。 フレームビルダーになる以前は造形の仕事に就いていたという経歴もあるためなのか、彼が作る自転車はまるでインディアンジュエリーのような繊細で懐かしい雰囲気をもちながらも、ちゃんと最先端のイメージも融合させることができる稀有なフレームビルダーの一人、今後の SimWorks との共闘にぜひご注目をしていただければ幸いです。

La Marche

ビルダーのトムとは実は Stinner の工房で8年前に出会っていました。

ストリートサイクリストであった彼は自分の思いの変化とともにその道筋を描き、行動し、一つの集大成、La Marche を作り上げたのでした。ショーのあとに一緒にバイクキャンプへも行ったのですが、古くからのサイクリストの友人たちとともにトムが作り上げた自転車たちが土と埃まみれになり、美しく汚れていく道具たちは、これこそがハンドメイドバイクの正しき意味だと言わんばかりに、宝石のように輝いていました。そして SimWorks の製造する多くのパーツをバランスよく意識的に使ってくれていたことをこの場を借りて感謝したいです。本当にありがとう。

Velocity

実は最近 Velocity はオーナーシップが変更され、とここまで書くと不安になる方もいると思いますが、その権利を買い取ったのは社員だったのです。

現社長のマットとは私が初めて行ったインターバイクのブースで顔を合わせ、それからもう17年に及ぶ付き合いになっています。MADE では久しぶりにゆっくりと話すことが出来、近況や未来への展望までも話すことが出来ました。彼らもまた変化が必要と感じているらしく、SimWorks とのコラボレーションに関してもとても協力的、これからもしっかりと動いていくとの確約をもらい、すでに次の Standalone プロジェクトの内容を打ち合わせしてきましたので、こちらもご期待ください。

Paul Component

すでに SimWorks のブログでご存じの方もいらっしゃると思いますが、今年は久しぶりに SimWorks とのコラボレーションアイテムがリリースされる予定の がされました(先週末に無事リリースされました。)

ポールコンポーネントですが、御大ポール社長、そしてフレッシュエアー時代からの友人トラビスとの久しぶりの再会は本当にグッと来るものがありました。世の中がどんどんと”テクノロジー”に満たされていく世界の中ですが、安全性を信じ、屈強で作業性が高く、そして美しい製品作りに努めてくれているのは、真の意味での”使いやすい自転車”を組み立てていくためにも必ず必要とされる部品なのです。この意味についてはまたみなさんと議論したいわけですが。

Bike Friday

Bike Friday。他のメーカーのような決してきらびやかなブースではありませんが、彼らの長きにわたる革新的な想像力をようやく社会が理解し始めたのではないかなと思っています。

創業者のアランさんは今でこそ使用率が急激に上がっているサイクルトレーラーメーカー バーリーの創始者でもありました。彼の想像力は他のメーカーの方法や哲学とは異なり、自転車をどのように社会とベストフィットさせていくかが主体であったのでないかと想像できるのです。それは小径車の創造につながっています。今回のショーでも多くの小径車が展示されていましたが、Bike Friday が持つ経験値ほどまでにはまだ達しきれていないように感じたのは事実ですが、それを作る意味を考え始めたのはよりよい社会の形成に繋がると感じています。

Ultra Dynamico & Ron’s Bikes

ロニーとパトリック、All about LOVE、愛すべきサイクリスト、愛に満ち溢れた自転車とパーツたち。

彼らが近年のアメリカ自転車業界にもたらした、自転車とライフスタイルを融合しよう!という提案の功績は、近年のテクノロジーの進化以上に重要だと個人的には考えており、それはもう何ものにも代えがたいと思っています。わたしもサークルズチームに口酸っぱく言うのですが、消耗品、特にタイヤが与えてくれる感動は実はフレームとホイールと同じ価値を持つということ、つまりとても重要なのですよと。だから消耗品を店舗においてどのように捉えて、考え始めることができるかが良い自転車屋になる鍵だとも思うのです。

話はそれましたが、今回ロンが持ち込んできたポリッシュされた2台のアルミバイク、これこそ現代で作りたくてもなかなか作れないバイクなのですが、作れてしまうのがこの世界の正解なのです。

Desalvo Cycle

マイクもとっても元気でした。昨年の冬、はっちゃけすぎてスノーボードでのクラッシュのために腕を骨折したため長く溶接ができなかったことを日本で待っているカスタマーに対してひたすらわびていました(でも雪遊び楽しすぎてやめれないんだよ〜とも言っていて草。)が、話をよくよく聞くと Bicycle Crumb とのプロモーション活動で、おいおい大丈夫かよというくらいにウェイティングリストも溜まっているとのこと。

もちろんサークルズ(もちろんCWD でも)はいつでも彼へのオーダーを受け付けていますのでご安心を。(少し時間はかかりますが)バイクパッキングにも行きたいけど、仕事に戻ると言ってショーのあと誰よりも早く帰っていったマイクには近く彼の故郷アシュランドで再会したいと思っています。

Black Cat Bicycle

トッドが今回の MADE に来てくれていたのが最大の収穫かもしれません。ひとそれぞれ自転車に対する考え方が違うと思いますが、わたしはトッドの自転車に対する思いがとても好きなのです。

職人性、想像性、偶然性、経験値、ひねくれ度、何事もバランスが大切であり、そのバランスの置き方によって表現が変わります。ぼくはトッドのバランスと表現力は誰も真似の出来ない領域にいると思っていますし、真似をしたらダメかなとも思います。

あと、トッドに合うとちょっとリックのことも考えてしまうのですけどね、これはまた別の機会に。オーダーも少しずつ取り始めているとのこと、もう少しすべての状況が整ったらオーダー受付の再開アナウンスが出来たらと思っていますが、まずはわたしから新しいオファーを出しておきましたのでこちらもご期待くださいませ。

Simple Bike

上文から Simple のオスカーが、と聞き慣れない言葉が飛びかかっていたと思いますが、この Simple Bike は馴染みの少ない人が多いと思います。

ビルダーのオスカーはわたしにとって早すぎた名作 Doppo Racer(アルミのオールロードですね。)のまさに生みの親なのです。彼のスキルと性格、そして人となりを知っているひとだけが彼に直接オーダーしているというウワサのスモールメーカーなのですが、彼が一番得意とするのは OEM 製造とジグの製作。

MADE の現場においても彼が作った自転車と思われる作品がところどころに。まぁそこをあまり気にしないし突っ込まないのも彼らの生き方の流儀であり、輪界の歴史をちゃんと紐解けば、そんなこといちいちかまってる場合ではなくなりますのでご安心を。脱線を戻すと、彼のジグは最高に使いやすい!あのセブンサイクルでも使用されている代物なので、ぜひ日本のビルダーもお見知りおきくださいませ。

White Industries & Astral Cycling

いつも Doppo の組み立て時にお世話になる、クリスキングと並ぶウェストコーストのコンポーネントメーカーの雄、ホワイトインダストリーですが、世代間における事業継承の受け渡しもスムーズに行われたことによって、さらに力をつけてきていることが感じられたブースセッティングでした。

ハンドメイドバイクの標準になりつつあるクランク、BB セットですが、実は注目すべきことはその奥に陣取っていたホイールメーカーの Astral Cycling、この秋からサークルズでも取り扱いを始める予定の新たなリム、ホイールメーカーなのですが、こちらも Velocity と同じくしてアルミからカーボンリムのそのすべてをドメスティックで製造する稀有なメーカー、以前ホワイトがリム製造に着手し、製造機械の故障で断念していた頃に運良く M&A でグループに傘下入りをしたのですが、もともとは Rolf Wheel から派生する血筋を持つ折り紙付きの優良メーカーです。MADE でもオレンジ色のデカールが気になった人も多くいると思いますが、会場でのその使用率の高さがすべてを物語っていると思います。アナウンスを乞うご期待ください。

かなり長くなってしまった今回のアーティクルですが、これでもかなり簡潔に素早くまとめたつもりです。

逆に言うとそれだけ見るべきものや話すべきことが多くて困っているという状況なのです。これまでの数年において人と交われないという状況を考えても、業界の分断を勝手に懸念していたのですが、ここに集まった人たちの顔ぶれとその顔つきを見た時にわたしは救われたと感じました。

もちろんまだまだ会いたくても会えない人や様々な理由でこの場所に来れなかった古くからの友人もいますが、やはり自転車好きないちファンとして皆さんにお伝えしたいのは、もしサイクリングが好きなのであれば、絶対に来年はジョインするべきだと思います。そして何を見るべきで何をすべきなのかはそれぞれの価値なので違って当然ですが、どのタイミングでもいいので必ずそこに存在するヒトビトをしっかりと見るといいと思います。

SimWorks のブログ ではかなり詩的に書き殴りましたが、ヒトと自転車は出会うことによって初めて意味が立ち現れる。とわたしは信じています。

それはヒトとヒトが出会うこととほぼ同意義、まったく同じではないのではないかとも考えてしまう時があります。(たまに気持ち悪いと言われますが、どうしてもそう思ってしまう時があるのです。)

だからなんとかして僕たちが伝えたいことを、様々なモノゴトを通して、できる限りのメタファーとして伝え続けているのですが、そうは問屋は卸さないわけで。

でも動き続けて信じ続けていくことが大切だとサイクリングから学んだので、それをサークルズという実践の場から発信をし続けていくだけなのです。

わたしが愛してやまないこの美しい自転車の世界にまた人々が集い、ペダリングをし、歓喜し、ビジネスといえども競い合うばかりではなく、時に互いに助け合い、言葉にすると恥ずかしい言葉たちが最も似合ってしまうこの美しくてだらしのない世界がわたしの乾きを癒やし、そして救ってくれたのかもしれません。

わたしは、そしてサークルズはいつも自転車をそして自転力を信じています。
またみんな来年も会いましょう。

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田中 慎也

空転する思いと考えを自転出来るところまで押し上げてみた2006年。自転し始めたその空間は更なる求心力を持ちより多く、より高くへと僕を運んでいくのだろうか。多くの仲間に支えられ、助けられて回り続ける回転はローリングストーンズの様に生き長らえることができるのならば素直にとても嬉しいのです。既成概念をぶっ飛ばしてあなただけの自転力に置き換えてくれるのなら僕は何時でも一緒に漕ぎ進めていきたいと思っているのだから。
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