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【Sycip Design】Urban Track frame

Life is comin’ back..

自由で豊かなバイクの定義

こんにちは、Circlesの田中です。

「自由に走る」という言葉を、どこで、どんなふうに受け止めるか。

そんな問いに対して、わたしが出したいくつかの答えのひとつが、カリフォルニアからまた届きました。

その答えのひとつとして、Sycip Design / ジェレミー・シシップによる、都市型のトラックバイク。

昨年のMADE終了後、バイクパッキングの旅の途中でお願いをしたこの1台は、RETROTECによる1×1スタイルのMTBに続く、田中の独断と偏見による “第三弾モデル” として製作してもらったものです。

RETROTECモデルがオフロードで“使い切る”バイクだったとすれば、こちらはアスファルトの上、信号と坂道と喧騒の中で、
「しっかりと踏み切って、静かな満足をもたらす1台」 をコンセプトに設計をお願いしました。

今回は、このバイクが持つ美しさと豊かさ、そしてジェレミー・シシップという人物そのものをご紹介しつつ、みなさまにこの1台をご案内させてください。


「普通であること」の美学

お願いしたのは、変速も装飾もない、シンプルなトラックバイク。
でもそれは、いわゆる一般的なトラックバイクとは少し違います。

私が思い描いていたのは、SURLY Steamrollerのようなストリートの感性を持ちながらも、もう少し繊細で、もう少し穏やかで、そしてもっと“今の気分”に寄り添ってくれる1台。

それを正しく具現化できるのは、カリフォルニア随一の溶接技術を持つジェレミー・シシップしかいない、それはもうおのずとそういう答えに行きつくわけなのです。


サンタローザの静かな工房から

Sycip Designは1990年代初頭、現在の主宰者ジェレミーと兄のジェイによって、サンフランシスコで創業されました。

その後、ジェイがポートランドへ移住したのを機に、ジェレミーが単独で活動を続け、現在はカリフォルニア・サンタローザの住宅脇にあるガレージ工房にて、すべての製造工程をひとりで担っています。

このサンタローザという町は、以前ご紹介したRETROTECのカーティスが住む、ワインの香るナパとはまた違った落ち着きがあり、アーティストと生活者が穏やかに共存する小さな街。

スヌーピーの作者チャールズ・M・シュルツが晩年を過ごし、今も多くの日本人がスヌーピーミュージアムを訪れる場所でもあります。(ちなみにシュルツ氏はSURLYの地元ミネアポリスの出身でもあります。)

この静けさと親密さは、そのままジェレミーのものづくりのリズムに重なっているように思います。
彼の話し方は穏やかで、決して饒舌ではないけれど、その目は常に“人の生活”を見つめている。

どこをどう走るか、どこに停めるか、何に困っているのか、そうした具体的なイメージを丁寧にフレームへ落とし込んでいく。それこそが、Sycip Designの真骨頂です。

しかも彼は、自転車だけでなく、金属で作れるものであれば看板でも什器でも椅子でも、豊かさを感じたならば、なんでも請け負います。前回工房を訪ねたときには、なんとレストランで使われる予定のシャンデリアを製作していました。

“自転車ビルダー”という枠に収まらない、まさに「ものづくりの探求者」なのです。


都市を走るためのディテール

このSycip Urban Trackに込められた設計は、見た目こそミニマルですが、都市部での日常使いに必要な“ちょうどいい余白”が随所に詰まっています。

▷ スペックハイライト

  • フレーム素材:4130 CrMo スチール
  • BB規格:BSA 68mm(JIS)
  • ヘッドチューブ:1-1/8” アヘッド
  • シートポスト径:27.2mm(クランプ径30.0mm)
  • リアエンド:120mm(トラックエンド)
  • 最大タイヤ幅:700×35c(泥除け装着も想定)
  • ブレーキ:キャリパーブレーキ(ミディアムリーチ)
  • カラー:CANDY BROWN / PORSCHE GREY(Prismatic社パウダーコート)

無駄な装飾をそぎ落としながらも、使いやすさへの配慮は徹底。
35cまでのタイヤを包み込むクリアランスと、簡易ラック、フェンダー装着も可能な設計は、都市での“日常使いの理想形”として提案しています。

カラーには、オマージュ元であるSteamrollerへの敬意を込め、過去に存在したカラーリングをベースにしつつ、Sycipファミリーが大好物である、70年代のポルシェ純正色でアップデート。

CANDY BROWNは、光の加減で表情を変えるさりげない色気を、PORSCHE GREYは、往年のポルシェが纏っていた言葉にならない深みを、それぞれ持っていると感じています。


誰にも媚びない「いいバイク」

このフレームの最大の美学は、誰かに見せつけるための自己主張が一切ないことかもしれません。
ロゴや過度な装飾に頼らず、ただソリッドな塗装だけで静かにそこに佇んでいる姿。

けれど、ステーのしなやかな線、フォークの形状、丹念な溶接痕、緻密に計算されたジオメトリ。そうした細部をじっと眺めてみれば、「ああ、これは確かなものだ」と、豊かに人生を過ごしてきた、眼力のある人ならすぐに気づくでしょう。

ジェレミー自身が“機能美”という言葉を口にすることはほとんどありませんが、彼の手がけるフレームには、機能から必然的に立ち上がってくる美しさが息づいています。無理に飾らないからこそ、純粋で力強い魅力を放ち、それは乗る者の心を深く満たしてくれるのです。


Sycipの生き方

ジェレミー・シシップという人物の魅力は、技術やフレームデザインにとどまりません。

子育てをしながら、ひとりで30年以上にわたり製造を続け、地域のコミュニティにも深く関わりながら、「生活を良くするための自転車」を誠実に作り続けてきた一人のサイクリストでもあります。

アメリカのハンドメイドビルダーの中でも、「信頼されるものづくり」を選び続けてきた稀有な存在。Circlesが15年以上にわたってパートナーでいられる理由は、まさにそこにあります。


SYCIP BIKES Urban Track Bike Frameset

Size : 50cm, 52cm, 54cm, 56cm
Color : Candy Brown, Porche Grey

価格:660,000円(税込)

サークルズ店頭ではすでに販売を開始しており、ありがたいことに52cmは完売となってしまいましたが、本日ウェブショップにもアップしました。

また、カスタムオーダーをご希望の方には、サイズフィッティング、カラー選定、納期相談など、Circles Nagoya・Tokyo店頭、またはCWD販売協力店にて承っております。


終わりに

RETROTECの1×1がわたしにとっての“原点回帰” のバイクだったとすれば、このSycip Trackは “自由回帰” のためのバイクだと思っています。

派手で過剰に高性能な変速装置がなくても、特別な計測装置がついていなくても、特別な週末の一日のためではなく、都市のなかを“自分らしく”、毎日を楽しく走ること、そこにこそ、自転車の本質が宿るとわたしは信じています。

そんな大切なことを、静かにけれど確かに伝えてくれる1台。
それが、このSycip Urban Trackであってくれたらと願っています。

それでは皆さん、遊び心を忘れずに。
また街のどこかでお会いしましょう。

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田中 慎也

空転する思いと考えを自転出来るところまで押し上げてみた2006年。自転し始めたその空間は更なる求心力を持ちより多く、より高くへと僕を運んでいくのだろうか。多くの仲間に支えられ、助けられて回り続ける回転はローリングストーンズの様に生き長らえることができるのならば素直にとても嬉しいのです。既成概念をぶっ飛ばしてあなただけの自転力に置き換えてくれるのなら僕は何時でも一緒に漕ぎ進めていきたいと思っているのだから。
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