とても大きな交差点の手前にて
朝、扇風機の音で目が覚めるようになりました。
すでに空気は、うんざりするほどの熱気を帯びていて、ジメッとした風が窓から入ってきます。今年もまた、灼熱の夏が始まってしまいました。

毎年この季節になると、Circlesカンパニーの決算提出が近づくこともあって、自分たちの“向かう先”について考える時間が自然と増えていきます。ふだんは目の前の作業や連絡に追われているのに、気がつくと、少し遠くの想像をしてしまう。世界のこと、自分たちのこと、そしてそのあいだにある、未来のことなど。
そんなことを思いながら、今日も少し長めの話を綴ろうと思います。
世界の接続が、静かに揺れている
4月に書いたブログでも触れましたが、大国アメリカはやはり利己主義的な関税決定に向けて動いているようです。すでに中国製の完成車やパーツには高い関税が課されており、サプライチェーンの見直しを余儀なくされている大手ブランドも少なくないはずです。

けれど、それは何もアメリカだけの話ではありません。
ここ日本においても、材料費の上昇、物流の混乱、為替の変動が確実に起きていて、それらはすべて、“モノをつくって届ける”というシンプルな営みを、また少しずつ遠ざけているようにも感じられます。
SimWorksもまた、その真ん中にいます。
つくること、つづけていくこと、そしてそれを正しく届けること。
このあたりまえの営みを、これからどうつなげていけばいいのか。
わたしたちは、いま、そのことと向き合っています。
「Made in Japan」だけでは届かない
SimWorksが製品をつくるとき、そこにはいくつもの顔があります。
曲げ、削り、磨き、溶接し、また磨き上げる。その一つひとつに、人の手と時間が込められています。
わたしたちはこれまで、「Made in Japan」という言葉に込められた誠実さと信頼を信じてきました。職人の確かな技術、美しい仕上がり、丁寧な梱包、そういったものが、海を越えても必ず伝わるはずだと。
けれど、近年少しずつ、その確信が揺らいできています。
為替、関税、輸送コストの上昇だけが理由ではありません。今の世界では、ただ“良いもの”であるだけでは、なかなか選ばれない。
価格やスピードが最優先される流通の中においては、「品質」という言葉が語られる前に、比較の土俵から外されてしまうことさえあるということなのだと思います。

“にじみ出る”という伝え方
それでもなお、わたしたちには「伝えたい想い」があります。
だったらどうすればいいのだろうか、言葉だけで説明し尽くすのではなく、使った人が自然と気づいていくような、そんな伝わり方はできないかと考えるようになりました。
つくり手の思想やこだわりが、パッケージングから、プロダクトの細部から、ふとした瞬間に“にじみ出て”くるような伝え方。
たとえば、使い始めてしばらくしてから気づく「ここ、よくできてるな」という納得。あるいは、誰かに貸したときに「これ、なんかいいね」と言われて気づく価値。
そういう、静かな共鳴のようなものを目指したい。
大量消費とは逆の方向にある、小さくて、けれど確かな共鳴。そこにこそ、わたしたちが届けたい“SimWorksらしさ”としてのにじみ出しの作業があるのだと思っています。

ポートランドのショールームから
そうした考えを形にする場として、いまわたしたちは、アメリカ・ポートランドにあるSimWorksショールームに力を入れています。
この場所では、製品を並べて「売る」ことだけが目的ではありません。
来てくれた人たちと会話をしながら、その人の生活や乗り方に寄り添うようにして、自転車やパーツを提案する。そんな、対話を中心とした空間です。

たとえば、近所のトレイルの話から始まり、「じゃあ、実際に一緒に走ってみようか」という流れになることもあります。
スタッフは、そうやって自転車を通じた“体験”を共有しながら、SimWorksの世界観を少しずつ伝えてくれています。
一見まわり道のように思えるかもしれません。けれど、こうしたやりとりのなかでこそ、「これはなんかいいな」という感覚は、確実に伝わっていく。
にじみ出す伝え方は、効率や数字では測れませんが、でもそれがいちばん確かに“届いていく”方法だと、今のわたしたちにはとてもフィットしたやり方なのかなと感じています。

そして、そこで行われる会話のひとつひとつが、わたしたちにとっての新しい時間の始まりになっていく気もしています。
ことばの距離を越えて
先日、ヨーロッパを拠点に活動するSlowspin Societyというメディアが、アメリカの関税政策とその影響について、とても誠実なトーンで綴ったブログを公開していました(“Tariffs, and Trouble”)。
その記事では、素材価格の高騰や複雑化する国際物流のなかで、アメリカのNo.22のような小規模なフレームビルダーが、それでもなお「なぜ、どこで、誰のためにモノを作るのか」を模索し続ける姿が描かれていました。

言葉は違えども、製品の背景にある哲学や、届けることの意味にまで目を向けてくれるそのまなざしに、深く共感しました。
「製造するのは単なる製品ではなく、考え方のかたちなんだと思う」そんな一文が、心に残っています。
SimWorksもまた、これまで主にアメリカを中心に展開してきた活動を、ここからもう一歩広げていこうとしています。
わたしたちの空気感を正しく感じ取ってくれている、ヨーロッパやアジアの仲間たちとも、もっと深く手をつないでいきたい。
そんな気持ちが、あらためて静かに湧き上がってきています。
交差点の手前で
交差点では、誰もが注意深く立ち止まる必要があります。
道を確認したり、相手を思いやったり、少し迷ったり、思い出したり、そして風を感じてみたり。

そしてまた、進みだす必要があります。
2025年の夏、わたしたちはその交差点の手前に立っています。
世界とは、社会とは、なんなのだろうか。
そして、そんな世界、社会とどうつながるべきなのだろうか。
誰と、どんな距離感、スピードで一緒に進んでいくべきなのか。
答えはまだわたしにも分かりません。
でも、道はきっと、つづいているはずです。
今までも多分こんな感じだったような気がするから。
それでは皆さんごきげんよう。また来週お会いしましょう。