変えたい人、守りたい人、新しい人
いつもの年よりも少し早く、蝉の声がじわじわと街に広がってきました。名古屋ではアブラゼミの姿をほとんど見かけなくなり、いまや鳴いているのはすべてクマゼミです。地球温暖化を誰もが感じてしまう季節が全国的に始まりました。
名古屋の夏は、湿気も熱気も一緒くたに、派手に押し寄せてきます。そして、今年はいつのまにか選挙ポスターが貼られ、選挙カーの音が日常にも混ざり込んでいました。

SNSを開くと、「このままではダメだ」と訴える声がたくさん目に入ります。
また一方で、「守ってきたものを大切に」という言葉も見かけます。
どちらもとてもまっすぐで、どちらもとても切実です。
でもそのぶん、互いを「理解していない」と決めつけてしまう傾向も、強く感じられます。
わたしは50代を迎えてから、こうした言葉のぶつかり合いを、少し違う角度から眺められるようになりました。
若い頃はやはり「世界を変えなければ。いや、変えたい」と思っていましたし、それができると信じていました。
けれど今では、「守るべきもの」が少しずつ見えるようになり、変化には痛みや代償が伴うことも知っています。
ただ、だからこそ思うのです。
一方の考えだけを闇雲に信じてしまうと、結果的に視野が狭くなってしまうのではないかと。
この「変えたい人」と「守りたい人」。
両者はなぜ、ここまで分かり合いにくいのでしょうか。
今回は、そんなことを少し書いてみようと思います。
立場と時間のちがい
若い時は、変化を求めやすい傾向があります。
それは、今の環境に満足していない、あるいは満足できないからかもしれません。
将来への不安、そして未来への夢。
いずれにせよ、「このままではいけない」という感覚が、根っこにあるように思います。
「変化」こそが、そのまま「希望」になるのでしょう。

一方で、年配の方々は、今あるものを保持したいと感じやすくなります。
これまでの人生で積み重ねてきたもの、支えてくれた制度、築いてきた人間関係。それらが「変わらずに存在してくれること」で、安心が得られるからかもしれません。
ここにあるのは、善し悪しではなく、それぞれの「時間のちがい」なのだと思います。
どのくらい未来を生きるのか。
どのくらい過去を背負っているのか。
その比重が、自然と価値観を分けていくのだと感じます。
脳と社会のちがい
もう少し違う角度から見てみると、生物学的な背景もあるようです。
人間の脳は、年齢を重ねるごとに“変化への柔軟性”が確実に落ちていきます。これは、わたし自身の感覚としてもはっきり感じるところです。
新しいものを受け入れる力が少しずつ減り、「今まで通り」を求める傾向が強まっていきます。
これは経験に基づいた合理的な思考であり、「守ること」が不安を和らげる仕組みでもあるのでしょう。

若い人の脳は、その逆です。
新しいものに触れる力が強く、思考のパターンもまだ固定化されていません。
だからこそ、「変えること」がごく自然な行為として映り、「挑戦」や「実験」もポジティブに受け取られるのだと思います。
社会的に見ても、立場の違いは大きな要因です。
若者は、今の制度の中で受け取れるものがまだ少なく、変わることで得られる可能性のほうが大きいと感じています。
年配者は、これまでの社会から多くの恩恵を受け取ってきており、「変わること」が“失うこと”として映ってしまうのでしょう。
こうした構造的、心理的な違いを考えると、「変えたい」と「守りたい」が分かれてしまうのは、ごく自然なことなのかもしれません。
それでも、未来に向かって
ここでもう一度、選挙というものを見つめ直してみたいと思います。
選挙とは、「いま」を決める制度であると同時に、「未来を選ぶ」行為でもあります。
だからこそ、「未来にもっとも長く生きる人たち」の声に、もう少し耳を傾けてもいいのではないか、とわたしは思っています。

もちろん、これは「若者が正しい」という意味ではありません。
変えることにはリスクがありますし、変わることが必ずしも良い方向に進むとは限りません。
けれど、「このままでいい」という考えだけでは、社会の進歩が止まってしまいます。
わたしたちは、常に「変わること」と「守ること」の間で揺れながら生きているのだと思います。
大切なのは、“どちらか”を選ぶのではなく、“どちらも”を尊重する姿勢ではないでしょうか。
あいだに立つ者の責任
わたし自身、いまでは「変えたい」気持ちと「守りたい」気持ちの両方を、自分の中に感じています。
若い頃には見えなかったけれど、時間とともに価値を持つものが確かに存在していました。
一方で、まだ諦めたくない未来も、胸の奥に残っています。

だからこそ、「変える人」と「守る人」の間に立ち、新しい視点を持つことが、これからの「新しい人たち」の役割ではないかと思っています。
その役割は、きっと社会の橋渡しにつながっていくと信じています。
社会が大きく揺れている今、
わたしたちは未来に向けて、どんな言葉や心を残すことができるのでしょうか。
変わる勇気と、守る責任。その両方を引き受けながら、生きていく方法を、これからも探していきたいと思います。

それでは皆さんごきげんよう。また来週お会いしましょう。