BIKE FRIDAY “REAL” Archives Vol.1 / わたしがBIKE FRIDAYを愛する本当の理由。
安定を捨て、旅を選んだ男のはなし

もしあなたが、BIKE FRIDAYを「便利な折りたたみ自転車」
あるいは「少し洒落た街乗りの自転車」
そんなふうに思ってくれているのなら、少しだけ意識を整えてから、この話を読んでくれたらうれしいなと思います。
ご存知の通り、偏屈なわたしは、ありふれた自転車屋がよく書いてしまうような、自転車スペックの話をここでしたいとは思っていないですし、成功したブランドの美談などにもあまり興味はありません。
今回の主題は、「安定を捨てる」という、あるひとつの選択についての話だということを最初にお伝えしておきます。
なぜわたしが、Circlesというお店を企画し始めた時から、BIKE FRIDAYに取り扱いのオファーを出し続けていたのか、そして長い時を経て、ついに出会い、その後今日まで、出会いの瞬間と同じ気持ちで、長年にわたってこの自転車メーカーを愛しつづけているかという、ちょっとした告白にもなると思います。

理由はいろいろありますが、その大きな一つ、BIKE FRIDAYという自転車が、ある一人のエンジニアの「反逆」と「家族への愛」から生まれた存在だからなのだと思っています。
始まりは、裏庭のブランコの廃材
みなさんは「Burley(バーレー)」というブランドをご存知でしょうか。
最近では、電動ママチャリなどにも連結されていることが街中でも見受けられますが、あの黄色いチャイルドトレーラーで知られる、世界的なメーカーです。

実はそのBurleyを創業したのが、BIKE FRIDAYの生みの親、アラン・ショルツその本人です。
話は1970年代に遡ります。
当時のアランには、自転車レースがめっぽう強く “Burley Bev” と呼ばれた彼の妻 ベブと、生まれたばかりの娘 ハンナがいました。
彼が考えたのは、とてもシンプルなことでした。
「車を使わずに、娘と一緒にサタデーマーケットへ行きたい!」

アランは、自宅の裏庭にあった古いブランコの廃材を切り、溶接し、世界で初めてのチャイルドトレーラーを作ります。
それはビジネスのためではなかったのでしょう。
市場調査も、事業計画もないはずです。
ただ、家族と一緒に自転車で走りたかったのだと思います。
それが、Burleyの始まりだということをまずは知ってください。
「売れるもの」より、「自分が欲しいもの」を
1992年。
アランは、再び分岐点に立たされます。
彼が育てたBurleyは大きな組織となり、大きくなった会社は当然のように「安定」を求めるようになっていきます。
そんな中でアランが提案したのが、こういうアイデアでした。
「スーツケースに入れて、世界中どこへでも持っていける。
それでいて、ちゃんと“走る”自転車を作ろう」

大きな組織となった自分の会社から返ってきた答えは、とても明確でした。
「NO」
「そんなニッチなものは売れない」
多くの人なら、きっとそこで心が折れるのでしょう。
地位も、実績も、安定もあるのですから。
でも、アランは違いました。
「だったら、自分でやるよ」
彼はそう言って、自ら創業した会社を離れます。
安定した椅子を蹴り飛ばして、
まだ見ぬ世界へ行くための道具を作ることを選びました。
弟のハンズとともに、ガレージで再び溶接トーチを握る。
そうして生まれたのが
Green Gear Cycling社、現在もBIKE FRIDAYというブランドを所有する会社になります。
オレゴンの工場に流れるもの

わたしたちがユージーンの工場を訪れるたび、いつものように胸が熱くなります。
大企業のような整然としたクリーンルームではありません。
鉄を切る音、溶接の火花、油の匂い。
ちゃんとしっかりと身体に染みついてくれる、現場の空気です。
職人たちの手は、厚く、傷だらけで、油にまみれています。
塗装も自社工場です。そしてその手は多くのことを知っています。
「このフレームは、ジャパンのナゴヤってところで、
こういう走り方をしたい人のところへ行く」のだと。
そして今、その工場、ブランドの舵を取っているのは、かつてアランがサンデーマーケットに行くために、自作のトレーラーに乗せて走った娘、ハンナ・ショルツです。

父が娘のために作った道具。
父が本当に作りたかった自転車。
それを今、娘が引き受けている。
これは完成した物語ではないのです。
今も脈々と続いている、選択の連なりとでも言えるのでしょうか。
伝えたいのは、スペックではない
わたしたちがBIKE FRIDAYを店頭で提案するとき、それは商品をただ並べて売るという仕事にはなりません。
彼らが「安定を捨ててでも守りたかった自由の精神」と、オレゴンで積み重ねてきた時間の全てを、日本のサイクリストたちにしっかりと手渡したいと思うのです。
だから、もちろんフィッティングにこだわりますし、折り畳めることに関しても、その正しい意味とその機構にまで、彼らの思いが詰まっていることを伝えようと努力をしています。

身体にピッタリと合い、
可能な限りの荷物を積み、
知らない土地を走り回り、
たとえ道中で傷だらけになったとしても、愛着は更に湧いてきます。
BIKE FRIDAYもまた、わたしの愛したFUN TOOLSと同様に、飾るための自転車ではなく、正しく使いきれる道具だということを、正しく伝えたいと思っています。
アランが自分で創業した会社、Burleyを離れてまで、手に入れたかったその「自由精神」、そのアイデンティティーをしっかりと引き継いだBIKE FRIDAY。
そんなモノと意志の話などを今回から3回に分けて続けて行けたらと思っています。
それではみなさまごきげんよう。また来週お目にかかりましょう。