輪郭のないものを作る
見えない価値を積み上げるということ
いわゆるビジネスの世界では、「数値化できるもの」が価値を持つとされることがとても多いです。売上、利益率、成長率、リーチ数、これらの指標は確かに経営を測る上でとても重要です。しかし、それだけでメーカーやブランド、そしてリテールが生き残れるかといえば、答えは明らかに “NO” だと思います。

サークルズが生み出した、SimWorksというブランドを例に挙げて今回は話を進めたいと思います。一般的な愛好家はSimWorksを「パーツメーカー」として捉えられていることが多いと感じていますが、わたしたちが本当に作り出しそうとしているのは、”単なる”製品ではなく、「文化」や「価値観」といった輪郭を見つけにくいもの、そしてブランドを支えるのは、カタログには載らない「輪郭のないもの」——つまり、数値で測れない価値なのだと思っています。
ゼロから生み出すことの難しさ
「何か新しいものを生み出すこと」は簡単なことではありません。特に、それが単なる機能やスペックではなく、文化や価値観といった抽象的なものである場合、その難易度はさらに上がります。

新しいものをゼロから形にするには、まず「見えない価値」を信じる力が必要ではないかと思っています。誰も気づかないようなディテールにとことんこだわり、確固たる信念と粘り強さが求められるものだとも思っています。
様々な製品がただのモノにとどまらず、特別な存在になるのは、その裏に必ず存在するプロセスがあるからです。最初は漠然としたアイデアでしかなかったものが、形になり、社会の中で価値を持ち始める。そこには、多くの試行錯誤と、目に見えない努力とディテールが積み重なっていのでしょう。

この道のりは決して楽ではありません。「売れるかどうかわからない」「理解してもらえるかわからない」そんな不安を抱えながら進むこともあります。それでも、数値化できない価値があると信じ続けることが、新しいモノゴトを生み出すための唯一の方法なのかもしれません。
わたしたちが作る「輪郭のないもの」
1. 製品の裏にあるストーリー
SimWorksの製品には、それぞれにストーリーがあります。例えば、あるハンドルバーは、シンプルなデザインながらも、唯一無二のフィーリングを生み出すことを目指し、何度も試作とテストを繰り返して誕生しました。「なぜこの形なのか?」と聞かれたとき、「それが最高に気持ちいいから」と自信を持って答えられるかどうか——その確信を得るために、試行錯誤を重ねます。

気持ちよさとは、単なる感覚ではなく、実際に何度も乗り込んで確かめ、細かな違いを調整することで生まれます。手にしたときのフィット感、走ったときの自然な操作性——それらすべてをテストしながら磨き上げた結果として、モノは生まれるべきだと信じています。
2. 「美学」が生む共鳴
SimWorksにとって、美学とは単なる見た目の美しさではありません。それは、機能と感性のバランスがとれたデザインであり、ライダーが直感的に「これだ」と感じる瞬間を生み出すためのものだと思います。
たとえば、ハンドルバーの曲がり具合ひとつとっても、それが「美しいかどうか」だけで決めることはなく、サンプルを実際に握ってみて、第2サンプルでは何度も走り込んで、ライダーの動きと一体になる形を探った結果として、洗練されたラインが生まれるのだと思います。
SimWorksの美学は試行錯誤の積み重ね、そしてに経験と感性よって形作られます。決して数値や市場のトレンドに流されるだけでは生み出されないものなのです。

「なんだか心地よい」「つい手に取りたくなる」——そんな感覚こそが、美学が生み出す共鳴なのです。
3. コミュニティとカルチャーの醸成
ブランドとは、単に商品を売るだけのものではないと考えています。それが真にマーケットに根付くためには、カルチャーとしても機能するべきではないかと感じています。
SimWorksは長年にわたり、世界中のサイクリストやショップとつながりを作りながら、単なる売り手と買い手の関係を超えたコミュニティを築いてきたことは自負としてあります。サイクリストたちが自分の自転車にSimWorksのパーツをつけることに意味を感じるのは、それが「その一部になれる」感覚を与えるからなのだと思います。やはりブランドを単なる「供給者」にしないためには、こうした文化の醸成が不可欠です。

わたしたちはただの「メーカー」を目指すべきではなく、愛好家、遊び人とともに生きるべきであり、時にイベントやポップアップを開催し、一緒に走り、語り合う。そのすべてが、SimWorksというブランドの「輪郭のない価値」なのでしょう。
目に見えないものがブランドを支える
「SimWorksは何を作っているのか?」と聞かれたら、「自転車パーツ」ではなく、たぶん「自転車文化」と答えるべきなのかもしれません。

どれだけ優れた製品を作ったとしても、それだけではブランドは成立しません。ブランドを形作るのは、製品のデザインやストーリー、美学、そしてコミュニティです。これらはすべて、輪郭のないもの ——数値では測れない物事の積み重ね、つまりは目に見えないけれども確かに感じられる「価値」なのでしょう。

わたしたちは「売れるもの」をただ作るのではなく、「意味のあるもの」を作りたいと真剣に考えています。それはときに非効率で、回り道に見えるかもしれません。しかし、そこにこそ ”らしさ” があり、それこそがわたしたちが創造し続けたいと思う「輪郭のない価値」なのであり、そのような価値を大切にしながら、新しい可能性を探し続けて生きたいものです。
それではみなさんごきげんよう、また来週お目にかかりましょう。