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「週刊 球体の作りかた」Vol.8

身体の記憶 — 自転車に乗るということ

自転車に乗ることは、何も考えなければ単なる移動手段に過ぎませんが、ちょっとロジカルに分解すると、身体が無意識のうちに覚えた動きや感覚の積み重ねとも言えます。私たちは無意識のうちに動作を最適化し、経験を通じて自転車と調和していきます。

例えば、初めて補助輪なしで乗れるようになったときのことを思い出してみてください。最初はバランスが取れず、ぎこちなくペダルを踏み、ハンドルを小刻みに揺らしながら走っていたかもしれません。しかし、何度も挑戦するうちに、ある瞬間、突然すべてが噛み合い、スムーズに走れるようになります。そのとき、自転車が単なる乗り物ではなく、身体の一部になったように感じられたことを思い出してみてください。これこそが、「身体の記憶」が形成される瞬間なのかもしれません。

バイクフィットを超えた身体の感覚

近年、スポーツバイクをより身近に、そして誰もが簡単に売れるようにとバイクフィットという手法が広まり、ライダーに最適なポジションを数値的に導き出すことが割と一般化しました。しかし、長年自転車に乗り続けているサイクリストの多くは、フィットデータに頼らなくても、自らの感覚で最適なポジションを見つけることができます。

例えばサドルに跨ったとき、無意識のうちに「ここがしっくりくる」と思える位置に腰を落ち着けることがあるかと思います。ハンドルの高さやステムの長さが少し変わったとしても、違和感があればすぐに気づくはずです。クランクを踏み込む角度、膝の動き、ペダルの回転速度——それらは数値ではなく、身体が覚えたリズムや感覚の中にもあります。試行錯誤を繰り返しながらも、少し自転車に乗り続けていくと、無意識のうちに最も自然で快適なフォームへと収束していくのです。

長時間のライドのススメと身体の適応

長時間のライドを続けることで、身体は少しずつ適応していきます。最初は足が重くなり、肩や首がこわばり、どこに力を入れるべきかわからないこともあるでしょう。しかし、繰り返し乗っていくうちに、まず無駄な力を抜くことを覚え、適切な筋肉の使い方が自然と身についていきます。

向かい風を受けたとき、知らず知らずのうちに体を低くしたり、登り坂では、ペダルを回すリズムを一定に保ち、最適なギアを直感的に選ぶようにもなっていきます。ダウンヒルでは、ブレーキをかけるタイミングがどんどん体に染み付いていきます。こうしたひとつひとつの動作たちは、長時間自転車にまたがることによって、意識的に考えることなく身体が勝手に感じ、実行していくものだったりします。それはまるで、自転車(相棒)と密な対話をしているかのようだと私は考えています。そしてその対話の時間こそが新しい自転車を相棒化するための儀式に近いかも知れません。

経験としての自転車

自転車に乗ることは、単なる運動スキルの習得と捉える必要はなく、過ごした時間と共に身体に蓄積される記憶のプロセスだと思ってください。その行為以外にも、初めてのロングライド、仲間とのグループライド、そして予期せぬトラブル ——それらすべての経験が、身体の奥深くに刻まれていきます。

そして、ある日ふと気づきます。意識しなくても、身体が自転車と一体になり、道を読み、風を感じ、そしてペダルを正しく踏み込んでいる自分に。それは、ただの習慣ではなく、長い時間をかけて築かれた「身体の記憶」なのかもしれません。

自転車モチ自転車ノリに、そしてやがては自転車になってしまうあなたたちと、いつの日か自転車以外のお話ができるようになってくれることをわたしたちは心から願っているわけなのです。

それではみなさんごきげんよう、また来週お目にかかりましょう。

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田中 慎也

空転する思いと考えを自転出来るところまで押し上げてみた2006年。自転し始めたその空間は更なる求心力を持ちより多く、より高くへと僕を運んでいくのだろうか。多くの仲間に支えられ、助けられて回り続ける回転はローリングストーンズの様に生き長らえることができるのならば素直にとても嬉しいのです。既成概念をぶっ飛ばしてあなただけの自転力に置き換えてくれるのなら僕は何時でも一緒に漕ぎ進めていきたいと思っているのだから。
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