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「週刊 球体のつくり方」Vol.18

定数と変数のあいだで

人間らしさを守るしくみ

もしも、毎日同じ時間に目が覚めて、決まった時間にご飯を食べて、一定の成果を安定して出し続けることができたら。
それは理想的な社会人かもしれないし、評価されやすい「正解の大人」なのかもしれません。


でも、そんな理想を突き詰めていくと、ふとある種のロボットやAIに近づいていくような気がします。
ミスもなく、感情に左右されず、一定の出力を保証する機械、それが求められているような社会の空気を、ときおり感じることもあります。

けれど現実のわたしたち人間は、感情に揺れ、気分に左右され、ときに冴えわたり、ときに沈みこむ存在なのでしょう。けれども、その“ブレ”があるからこそ、誰かの痛みに気づけたり、自分にしかできない工夫が生まれたりするのかもしれません。

それを「不安定」と片づけてしまうことは簡単だけれど、むしろそんな揺らぎこそが、人間らしさそのものなのかもしれません。

変わるものと、変わらないもの

プログラミングや数学の世界には、「定数」と「変数」という考え方があります。

定数とは、変わらない値のこと。
円周率のように、いつ、どこで使っても同じ結果を返してくれるものです。

一方で変数は、状況や条件に応じて変わる値。
気温や為替、気分や天気、あるいは今日の自分とか。
このふたつの関係は、わたしたちの働き方や社会の仕組みにも、不思議と重なって見えてきます。

人を定数として扱う社会

たとえば、労働という営みの中で。
多くの労働環境下においてでは、人を「定数」のように扱いたがります。

「1時間働けば1時間分の成果が出るはず」
「誰がやっても同じ結果が出るはず」

このような前提が、制度や評価の根底に横たわっているように思えます。

けれど実際はどうでしょうか。
ある日は1時間で信じられないほどの集中ができたり、
またある日は何をやっても上手くいかなかったりする。

人間とは本来、「変数」であるはずなのだからです。

変数を定数に押し込める圧力

そんな人間らしさを、社会とは時に抑え込もうとします。
成果、効率、評価、そういった尺度を揃えることで、公平性や管理のしやすさを手に入れることがシステムつくりにはとても重要だということです。

でも、変数を定数に見立てることによって、きっとどこかで無理や矛盾が生まれてくるのも事実です。

たとえば、1時間で○件こなせば合格、という評価制度があるとします。それは分かりやすくて、数字としては“公平”に見えるのですが、その1時間に何があったのか、誰にも見えない工夫や配慮、失敗と挑戦などがあったのかもしれないと想像することもできるのです。

生産性はもっと揺れていい

生産性という言葉も、数字で語られることが多くなりました。
けれど本来の生産性とは、もっと流動的で曖昧で、人と人との関係性や空気感の中から生まれてくるものだった気がします。

道具の配置を変えたらスムーズになったり、
みんなで笑って働けたから一日が早く感じたり、
そんな“ゆらぎ”こそが、本当の働きやすさなのではないのだろうかと考えたりもするわけです。

変数を支える定数を設計する

もちろん、定数は必要です。
安定した制度、整備されたルール、効率的なツール。

でもそれは、人間を閉じ込めるためではなく、
変数である人間を支えるためにあるべきものだととらえてみる。

そのとき大切なのは、
「変化」することを前提とした制度と設計ということだと思います。

  • 調子の悪い日に、仲間に頼れる仕組みとは
  • 働き方に正しくグラデーションがある評価法
  • 成果だけでなく、プロセスを肯定する文化設計

言えば易しで、これを構築しようとすると、とても複雑だなと思いますが、このような仕組みが、これからの時代にはきっと必要になっていくはずだと思っています。

ゆらぎを肯定する社会へ

Circlesという自転車屋の現場でも、日々さまざまな“変数”が生まれます。

お客様の表情、スタッフの体調、天気、気温、忙しさ。

それらを「揺らいでいいもの」として受け入れながら、それでもうまく回していくためには、変数を支える“定数”が必要なのだと、ここまで書いてきてあらためて感じます。

AIやロボットが“定数”を代替していく時代ですが、
人間に残された価値とは、「不確かさ」や「感情」なのかもしれません。

変わること、迷うこと、失敗すること、
そして “ほかの誰か” のために立ち上がってみること。

そんな“人間らしさ”にこそ、これからの新たな社会が必要としている豊かさになるのではないかと思うのです。

それでは皆さんごきげんよう、また来週お会いしましょう。

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kyutai
田中 慎也

空転する思いと考えを自転出来るところまで押し上げてみた2006年。自転し始めたその空間は更なる求心力を持ちより多く、より高くへと僕を運んでいくのだろうか。多くの仲間に支えられ、助けられて回り続ける回転はローリングストーンズの様に生き長らえることができるのならば素直にとても嬉しいのです。既成概念をぶっ飛ばしてあなただけの自転力に置き換えてくれるのなら僕は何時でも一緒に漕ぎ進めていきたいと思っているのだから。
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