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ハブとリムの「間」にあるもの。ホイールの性格を決める“名脇役”スポークの話。

こんにちは、Circles Tokyoの吉本です。
前回の浅井くんのスタッフホイール紹介のブログはお読みいただきましたでしょうか?

ありがたいことにCircles Tokyoでも最近、ホイール組みのオーダーをたくさん頂いています。 「ずっと憧れていたあのハブで」 「リムはこのモデルを使ってみたい」カウンター越しに皆さんの理想のホイール構想を聞く時間は、メカニックとして最もワクワクする瞬間の一つです。 ハブはホイールの心臓、リムはホイールの顔。確かにそこが主役です。

でも、オーダーの最後に僕が「で、スポークはどうします?」と聞くと、多くの方が「えっ、そこはお任せで…」となることが多いんです。

待ってください。そこ、一番大事かもしれません。 ハブの回転をリムに伝え、路面からの衝撃を受け止める。 たった数ミリの細い金属線ですが、この「スポーク」の選び方一つで、ホイールは硬くもなるし、柔らかくもなる。いわば、ホイールの「性格」を決めるのはスポークなんです。

今日は、普段あまり語られないこの「線」の話を、少しディープにさせてください。

なぜ、スポークにこだわるのか?

スポークには大きく分けて形状の違いがあります。 太さが一定の「プレーン(ストレート)」と、場所によって太さが変わる「バテッド」。

  • プレーン: ガッチリとした剛性があり、たわみが少ない。反応が良いが、振動は拾いやすい。
  • バテッド: 真ん中などが細い分、軽量で「しなり」がある。乗り心地が良く、長距離でも疲れにくい。

「とにかく頑丈にしたいのか」「ロングライドで楽をしたいのか」。 用途に合わせてここを選び分けるのが、手組みホイールの醍醐味です。

Circles Tokyoで僕らが信頼を置く、代表的な4つのスポークを紹介しましょう。

SimWorks by Hoshi / Condor

「NJS認可の輝き。ニッポンの質実剛健」

まずは僕たちのオリジナルレーベル、SimWorksが国内唯一のスポークメーカー「星工業」に別注したCondor(コンドル)

このスポークには、競輪(NJS)認可の「スターブライト(Star Bright)」が採用されています。 なぜ、競輪選手はこのスポークを使うのか? 一般的には「硬くて反応が良いから」と思われがちですが、実は違います。競輪という公営競技において最も忌避されるべきは、レース中の機材トラブルによる「競技中断」です。 時速70kmを超えるプロ選手の爆発的な脚力を受け止め、「絶対に破断しないこと」。これこそがスターブライトに課せられた最大の使命なんです。

スポーツ車用のステンレススポーク(SUS304など)が硬く、極端な負荷がかかると破断しやすい側面を持ちます。スターブライトは独自の配合による「粘り気の強いステンレス線材(SUS430)」を使用しています。 この「粘り」が、過度な負荷がかかった際にもパキッと折れずに耐え抜き、走行時には独特の「しなやかさ(柔らかさ)」を生み出します。 結果として、路面からの衝撃をいなし、長距離を走ってもライダーを疲れさせず、そして決して破断させない。まさにツーリングやグラベルライドのための特性と言えます。

Straight (#14)
Single Butted (#14-15)

乗り方や好み応じて2種類をご用意。
SimWorks流・実用主義の結晶です。

SIMWORKS by Hoshi / Peregrine

「ウィングスターの輝き。アルデンテのような極上のコシ。」

次に紹介するのは、同じくSIMWORKS by Hoshiのステンレススポーク、Peregrine(ペレグリン)

このスポークの心臓部には、星工業が誇る最高級ステンレス素材「ウィングスター(Wing Star)」が採用されています。 Condorが「剛」なら、Peregrineは「柔と剛の融合」です。

Peregrineを見ると、少し「あめ色がかったシャンパンゴールド」に輝いているのが分かるはずです。 これは塗装ではありません。SUS304ステンレスに、星工業独自の特殊加工を施した際に現れる「焼き色」のようなもの。 この加工により、ステンレスの弱点だった「硬いゆえの脆さ(首飛び)」を克服。「驚くほどしなやかで、かつ強靭な粘り」を手に入れました。 錆びに強いステンレスでありながら、NJSスポーク並みの耐久性を持つ。まさに魔法の素材です。

ウィングスターの乗り味を一言で表すなら、まさに「アルデンテ」。 表面はしなやかで、路面の微振動を優しく吸収してくれる。 しかし、ひとたびペダルを強く踏み込めば、奥にしっかりとした「芯(コシ)」が反応し、パワーを逃さず推進力に変えてくれる。 表面は優しく、芯は強い。この絶妙なバランスこそが、ロングライドで疲れを残さず、かつ走る楽しさを味わえる秘訣です。

さらに、SimWorks別注として「首(ベンド部分)」の角度と長さを現代のハブに合わせて最適化。 ハブフランジへの攻撃性を極限まで下げているのも、長く愛用するための重要な「優しさ」です。

Straight (#14)
Single Butted (#14-15)
こちらも2種類をご用意。

私は27.5/2.22インチタイヤのSuper Yummyを履かせる山遊び用のホイールとしてASTRAL Outbackに合わせてインストール。シングルトラックやガレたダブルトラックでハードに使用してもノートラブル。スポークカットの際も一際硬い印象で、コシのおかげかホイールのフレも出にくい印象です!

DT SWISS / Competition

「冷間鍛造が生む、強靭なバネ。」

スイスが誇る世界No.1ブランド、DT SWISS。 そのラインナップの中で、世界中のホイールビルダーから「最も信頼できるダブルバテッドスポーク」として選ばれ続けているのが、このCompetition(コンペティション)です。

その大きな特徴はなんといっても2.0mm – 1.8mm – 2.0mmという両端が太く、真ん中が細い「ダブルバテッド」形状。

首とネジ山(2.0mm): 負荷のかかる両端は太くして強度を確保。中央部(1.8mm): 応力の少ない真ん中を細く絞ることで、軽量化と「しなり」を実現。

「細くなると弱くなるのでは?」 そう思うかもしれませんが、実は逆です。 中央部が適度に伸び縮みすることで、路面からの衝撃を吸収し、スポーク首元へのダメージを逃す「サスペンション」のような役割を果たします。 結果として、ストレートスポークよりも金属疲労に強く、ホイール全体の寿命が伸びるのです。

そして、DT SWISS独自の「冷間鍛造(Cold Forging)」技術により、金属の密度が極限まで高められているため、細くても強度は抜群。 レース機材としての軽さと、長期間使える耐久性。この相反する要素を完璧なバランスで両立させた、優等生にして最強のスタンダードです。

PHILWOOD

「“P”の刻印は、絶対的信頼の証。」

最後に紹介するのは、アメリカ・カリフォルニア州サンノゼの至宝、Phil Wood(フィルウッド)。 「メンテナンスフリーで、一生壊れないハブ」を作る彼らが、そのハブを組むために用意したスポークです。

彼らが重きを置くのは、軽さではなく「圧倒的な耐久性」と「揺るがない安心感」。 上質なステンレス鋼材を使用し、極めて高い精度で作られたこの直線的な金属棒は、まさにPhil Woodのハブ同様、激しい酷使に耐えうる強靭さを持っています。 そして何より、スポークの首元に刻まれた「P」の刻印が信頼の証と言えるでしょう。

実はPhil Woodのスポーク、ただ硬いだけではなく、用途に合わせて緻密に計算された3つのバリエーションが存在します。

Straight Gage Spokes(2.0mm・1.8mm)
首からネジ山まで太さが変わらないプレーンスポーク。2.0mmと1.8mmの2種類をラインナップしており、体重や積載量に合わせた細かい調整が可能です。 加工工程がシンプルな分、価格も他のバリエーションの半額程度。Phil Woodクオリティのタフさを手に入れられる、非常に魅力的な選択肢です。

Single butted spoke(2.3mm-2.0mm)

最も負荷のかかる首元付近を「2.3mm」と極太にし、そこからニップル部分に向けて2.0mmへと細くなるシングルバテッド形状。 もっとも重量はありますが、その分、耐久性は最強。重い荷物を積むツーリングバイクや、ハードなライディングをするMTB、「折れないこと」が絶対正義であるバイクには、これ一択です。

Double butted spoke(2.0mm-1.8mm-2.0mm)

両端は2.0mmで強度を保ちつつ、中央部分を1.8mmに絞り込んだダブルバテッド形状。 Phil Woodらしい耐久性はそのままに、「しなやかさ」と「軽量化」をプラスしています。ロードバイクからMTBまで、あらゆるジャンルでバランスの取れた性能を発揮する、優等生な一本です。

たかが針金、されど針金。 こうして並べてみると、たった数ミリの線の選び方ひとつで、ホイールの「性格」がガラリと変わることが伝わったかと思います。

だからこそ、冒頭の話に戻りますが、「スポークはお任せで」というのは、あまりに勿体ない。 そこは、あなたがどんな走り方をしたいのか、自転車とどう付き合っていきたいのかを表現する、一番の「編集点」だからです。

もちろん、プロとしての最適解は提案できます。でも、せっかくならカウンター越しに少しだけ「ワガママ」を言ってみてください。

抽象的なリクエストで構いません。 そこから僕らが、メカニックとしての「論理」と、いち自転車好きとしての「ロマン」を掛け合わせて、あなただけの正解を導き出します。

あなたの自転車を支える、美しく強靭な「線」の話。
ぜひCircles Tokyoの店頭で、その続きをしましょう。

お待ちしています。

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よっしー
吉本 直史

京都出身でセレクトショップに就職後気がつけば名古屋に。球体の重力には逆らえず気がつけばペダルを漕ぎ、気がつけばお気に入りの服が油にまみれる日々。服・音楽・家具etc色んなことにいっちょ噛みする性格は生まれ持った性分。日々日々散財の生活をしております。
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