Photo by Keita, Takashi & Rie / Text by Keita Oodaira
自転車ツーリングに必要な山道具を括り付けて、ノブ付きの太めのタイヤを履かせ、キャンプをし、オンロードからシングルトラックまでのどんな環境化においても自転車とともにひた走っていく遊び、バイクパッキングと呼ばれる存在を知ったのは、自転車ツーリング用のフレームバッグやサドルバックをそれぞれの自転車のサイズに応じてカスタムオーダーで作っていた、ポーセリンロケットというメーカーをシムワークスが7年ほど前に紹介してくれたからだった。
きっとバイクパッキングの定義みたいなものは必要も無いのだろうけど、なんとなく僕の知識内での古典的なツーリングバイクのノリとは大分違うなぁと直感的に感じていて、その代表的な装備としてのフレームバッグ、シートバッグ、ハンドルバーバッグなど機能性や耐久性に優れたアイテムがどういった環境の中で生まれてきたものなのか? そしてUL文化の最先端であるアメリカで、軽量で高機能な装備群をマウンテンバイクに質素に積み込み、長いトレイルを走るという遊びをSNS上で見るたびに自分も挑戦してみたいと強く思うようになっていった。
サークルズが毎年開催しているRIDEALIVEなどのツーリングイベントを通しても、2泊3日以上のキャンプライドを経験したことのないような僕が、アメリカの見知らぬ土地を走るなんてはたして現実的なのだろうかなどと悩みもしてみたものの、数年前から必ず僕はアメリカでバイクパッキングの旅をするとなぜか心の中で決めていた。 2018年に入り、まだどこに行こうかなんていうのはなく、旅の指針みたいなルートを探すためにネットサーフィンをしていても、すぐに”ここだ”という場所は見つからなかった。
そうしたある日、確か3月くらい、一緒に絶対に行こうと約束していたWellDoneのイノッチから 「ここやばいんじゃない?」 と1通のメールがきた。 それが今回僕らが挑戦したOREGON TIMBER TRAIL(以下オレゴン・ティンバー・トレイル)だった。
カリフォルニアとの州境である「ニューパインクリーク」からワシントンの州境である「フットリバー」までの全長約1080キロを繋ぐそのトレイルの存在を見つけ、しらみつぶしにその公式サイトやハッシュタグを漁りはじめた僕たちはすぐにその魅力に虜になってしまった。
サイト自体はとても見やすく作られており、マップ上には詳細なルートがトレースされており、トレイルヘッド、キャンプサイト、ロッジ、水の補給場所、コンビニ的な場所とライフラインの情報が最低限載っていた。 偶然にもクリスキングが来日した時に出会ったディランもこのトレイルプロジェクトに関わっているなんて情報も見つけ、「ここしかないっ!!」とテンションも最高潮、google先生の翻訳を使い毎日のように調べた。 予定をしていた7月といえばオレゴンの気候は雨季も明け最適だと聞き、一気に現実味が増し、毎日ワクワクが止まらなくなっていた。
そしてこのオレゴン・ティンバー・トレイルと僕らの持っているマウンテンバイクがCieloとDesalvoという、どちらもオレゴン州内で作られたものときたもんだから、長いこと日本で大事に使ってきた道具をオレゴンで走らせるなんてロマンがあるじゃないかというわけで、このツーリングをBACK TO OREGON TOURと名付けたのだった。
名古屋の朝食屋とカバン屋、さらにアメリカのカバン屋も合流して結成した僕たちのチームはセントラルオレゴンの田舎町 「オークリッジ」 をスタート地点とし、区間距離にして約600キロのトレイルをバイクパッキングでこの夏に走破したのだが、今回はその合計11日間の旅の記憶をここに綴っていこう思う。
About OREGON TIMBER TRAIL
オレゴンティンバートレイルは大まかにセクションが「FREMONT」「WILLAMETTE」「DESCHUTES」「HOOD」の4つに別れており、ホームページには各セクションの距離、標高獲得、予測必要日数、難易度などが詳しく記されている。 日程や自身の体力を予測し、スタート地点として決めたのは「WILLAMETTE」の後半にあたるオークリッジという街、そこからおよそ600キロの道程を2週間で走破してみようと決めた。
誤解のないように先に言っておくと、僕らは自分探しのような修行をしに旅に出ることが目的では決して無く、オレゴンの雄大な自然を肌で感じ、先を急ぐことだけに夢中になるのではなく、食事も楽しみ、焚き火をし、ビールを飲んで、語り合い、そこで出会う人たちとの縁を大切にして、その大自然の中に身を委ね、常にリラックスをし、今までの駆け足だった日常からの解脱もこの旅の大きな目的でもあった。
結果的にその楽しみ方は間違いなかったし、それを可能にするための移動手段はやはり「自転車」だった。
旅をともにした仲間
今回の旅をともにした仲間たちはサークルズの同じ屋根の下で働くWellDoneのイノッチ。 サークルズの3階にアトリエを構え、サイクルキャップやハイクザックなどたくさんのアイテムを生み続ける尾張名古屋が誇る生粋のガレージメーカーで自転車だけではなく、ハイキングカルチャーにも精通していて全国各地のポップアップイベントに引っ張りだこ。
そしてもう一人、カリフォルニアのバッグメーカーOUTER SHELLのカイル。 SNS上では知っていたがシムワークス USAのりえ坊が繋げたひょんなきっかけで、彼も今回の旅に同行した。 現在はサンフランシスコに拠点を構えながら、少し街から離れたサンタローザで暮らす、とにかく心優しいナイスガイだ。
旅の始まりの前々日には、クリスキングクルーと「サンディーリッジ・マウンテンバイクトレイル」を走り、前日にはオークリッジの「デッドマウンテン・トレイル」を走ったのだけども、どちらもこれまで走ったことのない極上なダウンヒルが楽しめる最高のトレイルだった。 そして旅のウォーミングアップ的にも、自転車の調子やパッキングをした荷物の配分を感じ、確かめるためにも重要な時間だった。 案の定不具合を見つけ、旅をスタートする前には少し改善することにも繋がったので、やはりプレライドはロングツーリング前には行っておくことを強くおすすめする。
そして今回のルートマップは「RIDE with GPS」という良質なアプリを見つけたのでそれを利用した。
シムワークス USAのりえ坊ともオークリッジで別れ、僕らは初日の難所であり、もしかしたらこの度一番の酷所にもなりそうな予感があった、20キロ 1200メートルアップのダートロードを進み始めた。
分かっているはずだった。。。分かっているはずだったのだが超辛い。。。
気温もどんどん上がり、日陰になる道はほとんどなく、およそ3時間くらいずっと登り続け、お腹が空いたところで道端で昼食にした。マップの見方がまだおぼつかない僕はどのくらいのところにいるのかもちょっと理解できていなかったが、それよりもお腹が空いたのでまずはご飯にした。 まずくはないが特別美味しい訳でもないアメリカで買ったインスタントのフライドライスをかけこみながらイノッチをのぞくと、彼は日本から行動食として持ってきていた「どん兵衛」を食べていた。 一口もらったが、うますぎた。 さすがどん兵衛。
そしてまた僕らは走り出した。自転車を押して歩くしかできないような急な坂道も長く続き、ようやくトレイルヘッドを見つけ、そこからはシングルトラックが続く。 ようやく入ったシングルトラックに気持ちもワクワクし、少しペダルを踏む力も強くなった。 トレイルの所々には大きな倒木、みんなで自転車を担ぎ上げ、順番に渡していく。 厳しい坂では降りて一歩一歩ゆっくり進めて行く。時折スムーズに進んだと思ったらまた降りて、そんなことの繰り返しだった。 でもときおりオレゴンが見せるその雄大な景色がとても美しくて、言葉にならないほどだった。
標高は1800メートルくらいのところでカイルがあっちの山を超えて行くんだよって言った指の先は果てしなく遠くを指していてちょっと絶望した。
事前から計画してきた旅の予想はスタートして半日ですでに過ぎ去り、スタートする前の僕らの安直な考えでいくと、この日は軽めに行って、スタートから50キロを走ったあたりのゴールド・レイクという湖があるキャンプ場にたどり着く予定だったが、夕方16時時点で僕らはスタートから約27キロ地点でさまよっていた。
命の次に大切なもの =「水」
だいぶ水が減ってきたので補給をしようと、ルート上から少し外れた給水ポイントを目指した。
激坂を下るので自転車はルート上に置いておき、草の茂みのなかの木に打ち込んだオレンジ色の矢印を頼りに道なき道を進む。 GPS上では水場にはついたのだけど、あたり見渡してもどこにもない。 そんなわけはないと、みんなで辺りを歩き回ったがやっぱりない。その水場は枯れていたのだった。
ちょっとショックすぎて笑えた。しかもそのすぐ近くにあった大きな岩にはTHE END OF THE WORLDって書いているオチだ。
なかなかドラマチック、うまくできすぎている。
暗くなると危険なのですぐに気持ちを切り替え、マップにある10キロ先のスモール・レイクを目指した。
この事件以後からだいぶみんなの言葉数が減り、集中力が切れてきたからなるべく声を掛け合い励ましあった。
心の中では「オレゴン・ティンバー・トレイル、、、マジでなめてました。。。」と何度も思った。
あたりはすっかり暗くなっていた。
軽いハンガーノックだった。
水を全部飲みきったイノッチが 「水がな〜〜い、少しくださ〜〜い〜〜〜」 と狂気に叫ぶあの言葉を僕は一生忘れられないだろう。
22時すぎにようやく湖を見つけ、そこで寝ることにした。 各自1本づつ持ってきたぬるいビールで乾杯し、食事を済ませた。 もはやビールがうまいとかわからないが、なんだか今日は生き延びることができたことを3人で讃えあった。 テントを貼って横になったらすぐに眠りにつきそうだったが、2人のいる方向ではないところから時折聞こえる足音に少し緊張して怯えたが、その日は疲れすぎて気づいたら落ちていた。 朝目を覚ましたら鹿がテントの周りをウロウロしていた。
朝は結構冷え、持ってきていた暖房着を使用、夜に到着したので暗くてわからなかったが、スモール・レイクは思った以上に大きくとても綺麗だった。 そして蚊がとても多い事もまた、このツーリング中はずっと悩まされることになる。
1日目の希望に満ちた僕らの旅のスタートはとてもハードで、600キロ先のゴールであるフットリバーがとてもとても遠くに思えた。
実際にこの1日目が今回の旅で一番辛く、それでいて景色はとても壮大で美しく記憶に残った。
これこそ僕が求めていた旅の充実感そのものであったことには違いなかったのだが。
BACK TO OREGON TOUR #02
https://circles-jp.com/feature/back-to-oregon-tour-02/