来店予約はこちら

受け継がれること ― HunterからLarkin、そしてClydesdaleへ

ある日の夕方、店のピットで見かけた一台のバイクに、なぜか目が止まった。近くに行き、ブランドの確認をした。胸の奥で古い記憶が掘り起こされてきた。

サンタクルーズで嗅ぐ風のにおいには、どこか金属の匂いが混じっていたことを遠い記憶の中にわたしは感じている。
その町の山奥で、Rick Hunterは長いあいだ、鉄と火を相手に静かに仕事をしてきた。

彼の工房は、整ってはいなかった。いなかったが、工具はいつも使いやすい場所に散らばり、壁には古いMTBのフレームやサンプルが吊られていた。

グラインダーが鳴り、ミルはいつも回り続けていた。火花がしばしば飛んだが、彼はただ黙々と作業を続けていた。
必要なことだけを話し、余計な言葉はけっして残さない。

「Rick Hunterは多くを喋らない。必要と不必要を見極め、そしてもう一度だけ確かめて、やっと口にするタイプである。」
―『Santacruz California Vol.1』(Circles, 2021)

以前書いたこの短い一文には、彼の人柄のすべてが詰まっている。
慎重で、正直で、言葉よりも手の動きで語る男。
そして同時に、“遊び”にとても正直な人でもあった。

「朝食も最高だ。そして作戦を練る。仕事ではない。どう遊ぶかの。」
―『About Playing Hunter Cycles』(Circles, 2021)

Rick Hunterにとって、ものづくりとは「遊びの延長」だった。
真面目すぎず、かと言って決していい加減でもない。
彼の言う“遊び”には、自分の手と身体を使って世界に触れることの喜びがあったと思う。
その自由さに多くの人が惚れたし、わたしが現地を訪れたときも、その空気に魅せられていたのだと思う。


Hunterのもとで学んだ青年、Darren Larkin

そんなRick Hunterのそばで長く働いた若者が、Darren Larkin(ダレン・ラーキン)。

彼はハンターの工房で約二年間、溶接の手伝いをしながら、彼の“仕事の哲学”を肌で覚えたのだと思う。
Rickが口にした「作りやすい鉄がいい」という言葉、それは単に技術的な話ではなく、人と素材が素直に向き合う姿勢を意味していた。

Darrenがその言葉を自分のものとして受け止めたのは、きっと静かな確信だったと思う。
彼のつくるフレームやフォークにも、余計な主張がない。
軽く、確かで、誠実。
整いすぎてはいないが、どこか安心する。
それはRickから受け継いだ“仕事の温度”のようなものなのかもしれない。

独立したDarrenは、アメリカ東海岸のコネチカット州 Deep Riverに自らの工房を構え、Larkin Cyclesを名乗るようになった。
TIG溶接とフィレットを自在に使い分け、粉体塗装の仕上げまで一貫して手掛ける。
彼の製品は、どれも無理のない設計で、乗る人の暮らしに自然と馴染む。
アーティストではなく、クラフツマン。
彼もまた“語らないこと”で語るタイプのビルダーだと信じている。


CRUST Bikesとの出会いと、Cargo Forkの誕生

そんなDarrenが注目を集めたのは、CRUST Bikesの図面を引くようになってからだと思う。

CRUSTはアメリカのカルト的ブランドで、グラベルやツーリングの常識をひっくり返すような設計を続けている。
その中で彼が手掛けた代表作のひとつが、Clydesdale Cargo Forkだとわたしは思う。

一見、ただの“荷物を積むためのフォーク”に見える。
けれどその構造には緻密さが必要となる。
20インチの前輪を採用し、フォークと一体化したプラットフォームを持つ。
この低い重心設計が、驚くほど安定した走りを、古い自転車に与えてくれる。
古いMTBやフォークを失ってしまったバイクに装着すれば、たちまち小さなサイクルトラックのような存在に変わる。

ラック中央はハブ軸上に位置し、荷物を載せてもハンドリングが乱れない。
Vブレーキとディスクブレーキの両対応、ライトマウントやフェンダー台座、三連ボトル台座まで備えた実用設計。
それでいて形はミニマル。派手なデザイン要素はどこにもない。

Rickが語った「どう遊ぶかの」という言葉を思い出す。
Darrenの設計をしたフォークは、まさにその精神の延長線上にあるとわたしは確信する。
重たいものを運ぶための“道具”でありながら、同時に“遊びの入口”にもなっている。
自転車を、いやむしろ使いにくくなった自転車を「暮らしの道具」に変える発想が、そこにある。


Circlesが届けたいもの

わたしがDarrenの設計したCargo Forkを特に紹介したい理由は、単に便利だからではない。
それがRick Hunterから続く思想の結晶だからだと、わたしが勝手に思っているからだ。
Rickが火花の中で笑っていたあの空気を、Darrenは今も自分の手の中に残そうとしているのかもしれないのだから。

そしてその延長線上に、CRUSTのClydesdale Cargo Forkがある。

「たかだか遊びであり、言ってしまえばたかだかの人生だ。」
―『About Playing Hunter Cycles』(Circles, 2018)

若かりしころ書いたこの一節を読み返すとき、肩の力がすこしだけ抜けてくれる。
“完璧な製品”なんて、最初から存在しない。
でも、“誠実に作られた道具”は、人の暮らしを確実に変えていく。
このCargo Forkはその代表なのかもしれない。

キャンプの荷物を積んでも、街で買い物をしても、まるで最初からそのために設計されたかのように自然に動く。
20インチの小さなタイヤが、重い荷物を支えながら軽やかに回る。
それを見ていると、Hunterが言った「作りやすい鉄がいい」という言葉の意味が、少しわかる気がする。

このフォークを扱うことはけっして過去を懐かしむことではなく、あの山奥の工房の熱と笑い声を、今の時代に正しく手渡すことなのだと思うからだ。
Darrenが描いた線の一本一本には、師の面影が宿っている、気がする。そんな循環が生まれることこそ、Circlesの本質だと思うから。


CRUST Clydesdale Cargo Forkは、Circlesの店頭およびオンラインショップで取り扱っています。
取付けや互換の相談もスタッフが丁寧に対応しますのでお気軽にお問い合わせください。

Hunter, Larkin, そしてCRUSTらの手が生み出したフォークは、受け継がれていく“遊びの思想”だと感じてもらえたら幸いです。

アバター画像

kyutai
田中 慎也

空転する思いと考えを自転出来るところまで押し上げてみた2006年。自転し始めたその空間は更なる求心力を持ちより多く、より高くへと僕を運んでいくのだろうか。多くの仲間に支えられ、助けられて回り続ける回転はローリングストーンズの様に生き長らえることができるのならば素直にとても嬉しいのです。既成概念をぶっ飛ばしてあなただけの自転力に置き換えてくれるのなら僕は何時でも一緒に漕ぎ進めていきたいと思っているのだから。
田中 慎也の記事一覧